【マンガシナリオ】過保護なお兄ちゃんの溺愛から卒業できない。



○居酒屋からの夜道
前回のシーンからの続き。

耀哉「ねぇ朱梛――、朱梛の彼氏って俺じゃダメなの?」
朱梛「耀哉くん……」
朱梛(それって――、)
朱梛「私がこの前貸した少女漫画の台詞だよね?」
耀哉「……ばれた?」
朱梛「ばれるよ! 面白い!って一気読みしてたじゃん」
耀哉「あのシーン好きでさ」
朱梛「全くいい年した大人が少女漫画にハマるとか……」
朱梛(そういうところもかわいくて好きなんだけど)
朱梛(てゆーか冗談でもやめてよ……期待しちゃうじゃん)

切なそうな朱梛のアップ。


○二週間後・大学の講義室

美冬「朱梛〜! おはよう!」
朱梛「おはよう、美冬(みふゆ)!」

朱梛モノローグ:
「この子は与謝野(よさの)美冬。
ゼミが一緒で席が隣になってから仲良くなった、大学に入って初めてできた友達」

美冬「昨日も遅くまで執筆してたら寝坊しちゃった」
朱梛「読んだよー! めっちゃキュンキュンした!」
美冬「うわー、ありがとう! ちょっと照れる」

朱梛モノローグ:
「美冬はなんと、私がよく使っている小説投稿サイト・ノベマルで恋愛小説を投稿してる作家さん!
ノベマル読者だと話したら意気投合した」


〜美冬との出会い・回想〜
美冬「あれっ、その本夏目はゆるの!? 私も好きだよ!」
朱梛「えっほんとに? ノベマルよく読んでて」
美冬「えっ嘘でしょ!? あたしもノベマル使ってる!」
朱梛「マジかー!!」
〜回想終了〜


朱梛モノローグ:
「彼氏つくるんだって色々生き急いでいたけど、やっぱりああいう感じは私には向いてなかった。
今は美冬と小説の話ができるのがすごく楽しい!」

美冬「朱梛は自分で書かないの?」
朱梛「一回書いてみようとしたことあるんだけど、全然書けなくて……短編すらまともに書けないんだって落ち込んでやめちゃったんだよね」
美冬「そっか〜」
朱梛「美冬はなんで恋愛小説なの?」
美冬「だって夢あるじゃん。ハイスペイケメンに溺愛されるとか♡」
朱梛「確かに」
朱梛(キラキラしたキャンパスライフを送るんだってことばかり考えてたけど、やっぱり気の合う友達と一緒にいる方がずっと楽しいな)

朱梛たちの前の席に50代くらいのおじさんが座る。

朱梛「あれ、あの人……」
美冬「やっぱり大学は色んな人いるよね。80代のおばあちゃんとかも通ってるって噂だよ」
朱梛「そうなんだ」
朱梛(耀哉くんが大学通い始めるくらいだし、大学だと普通なんだな)
美冬「何歳からでもチャレンジできるってすごいよね。あたしも最初は10代で作家デビューするって思ってたけど、今は自分のペースでやるつもり」
朱梛「美冬ならきっと書籍化できるよ」
美冬「ありがとう」


○講義後・学生食堂
ランチする朱梛と美冬。

美冬「そういえば朱梛、まだサークル決めてないよね?」
朱梛「うん、まだ迷ってる」
美冬「文芸サークル入らない?」
朱梛「文芸サークル?」
美冬「少人数でワイワイやってるんだけど楽しいよ。書籍化経験者もいて勉強になる」
朱梛「でも私、書けないんだけど」
美冬「読み専もいるから大丈夫! 見学だけでも来ない?」
朱梛「行ってみようかな」
美冬「やったあ!」


○文芸サークル部室

美冬「――というわけで、見学に来てくれました!」
朱梛「一葉朱梛です!」
耀哉「芥川耀哉でーす」
朱梛(……ん?)

パチパチと拍手が起こる中、キョトンとする朱梛。

朱梛「――って、なんで耀哉くんまでいるの!?」
耀哉「与謝野さんに誘ってもらって」
美冬「実は英語の授業が一緒なんだー」
朱梛「そうだったの!?」

先輩「なんか芥川くん、大人っぽいな?」
耀哉「今年で26なんで」
先輩「年上!? マジで!?」
耀哉「あ、でも全然タメ口で」
先輩「前は何してたの?」
耀哉「××社にいました」
先輩「めちゃくちゃ大手じゃん!! 話聞かせてよ!」

朱梛(なんかもう馴染んでる!?)
朱梛(すごいな、耀哉くん。年齢の壁なんて感じさせないで。私も頑張らないと!)

部員「朱梛ちゃんは読み専なんだよね? 普段何読むの?」
朱梛「青春ものが好きです!」
部員「好きな作家は?」
朱梛「夏目はゆる先生です!」

にこやかに答える朱梛のアップと耀哉の横顔アップ。

部員「夏目先生いいよねー」
朱梛「ですよね! 新刊もめちゃくちゃ泣けました!」


○帰り道
ごきげんな朱梛と隣を歩く耀哉。

耀哉「朱梛、楽しかった?」
朱梛「楽しかった! 入ろうと思う!」
耀哉「俺も入ろっかなー」
朱梛「耀哉くんも?」
耀哉「就職のこと聞きたいから入ってくれって言われたし」
朱梛「就活目的……」
耀哉「でも雰囲気良くて楽しそうだなって思ったよ。みんな自分の好きに一直線でいいなって」
朱梛「私も! あ、そうだ」

バッグの中から袋を取り出し、耀哉に渡す朱梛。

朱梛「はい、耀哉くんの合格祝い!」
耀哉「えっ……いいの?」
朱梛「うん、ちゃんとお祝いできてなかったなぁって。受験勉強も見てもらったお礼ということで」
耀哉「開けていい?」
朱梛「うん!」

袋の中にはブックカバーとブックマークが入っている。

耀哉「かわいい。これから使えるね」
朱梛「よかった〜」
耀哉「ありがとう、朱梛。大切に使うよ」
朱梛「えへへ」

嬉しそうにはにかむ朱梛。

朱梛「耀哉くんって年齢のこと普通に言えちゃうからすごいよね」
耀哉「別に隠すようなことじゃないし、珍しくもないでしょ」
朱梛「そうなんだけど、私だったら自分より年下の子と仲良くなれるかな? って気後れしちゃうかも」
耀哉「俺が大学行きたいと思ったのは朱梛のおかげだよ」
朱梛「え?」
耀哉「受験勉強を一生懸命頑張る朱梛を見て、俺も全力で自分のやりたいことやってみたいと思えたんだ」
朱梛「耀哉くん……」
朱梛(そんな風に思ってくれてたの、嬉しいな――……)
耀哉「……彼氏なんてつくらせたくないしね」
※ボソッと小声で。朱梛には聞こえてない。

耀哉のスマホが鳴る。

耀哉「あ、ごめん、電話」
朱梛「大丈夫、あっちで待ってるねー」


○自販機の前
炭酸飲料を飲みながら耀哉を待つ朱梛。

朱梛「ふー」
朱梛(――って、結局耀哉くんと一緒にいるじゃん!!)
朱梛(あーもー、サークルも同じだし! それを嬉しいと思っちゃってるし!)

耀哉『受験勉強を一生懸命頑張る朱梛を見て、俺も全力で自分のやりたいことやってみたいと思えたんだ』
※さっきの言葉を反芻する朱梛。

朱梛「あんな風に言われたら、ますます卒業できなくなっちゃうじゃん……」


○耀哉サイド
朱梛とは離れた場所で電話をしている。

耀哉「もしもし」
編集《夏目先生! プロット読みました! 大学生の青春もの、すごくいいですね!》
耀哉「ありがとうございます」
編集《この方向性で進めてみましょう!》
耀哉「はい」
編集《にしてもびっくりしましたよー。まさか本当に大学に入っちゃうなんて。どうですか、大学生活は?》
耀哉「楽しいですよ。いい刺激をもらってます」
編集《いいですね! 新作、めっちゃいいものができそうですね!》
耀哉「――そうですね。僕も楽しみです」

不敵に微笑む耀哉のアップ。