【マンガシナリオ】過保護なお兄ちゃんの溺愛から卒業できない。



○高校3年冬・自室
受験勉強中の朱梛(しゅな)。真剣な表情。

朱梛「…………できた!」
耀哉「どれどれ」

隣から覗き込む耀哉(かがや)
朱梛が解いた過去問を採点する。ドキドキしながら見守る朱梛。

耀哉「うん、全問正解」
朱梛「本当に!?」
耀哉「頑張ったね、朱梛」

優しい笑顔で頭をポンと撫でる耀哉。
思わずときめく朱梛。

朱梛「……っ! も、もう、やめてよっ」※恥ずかしそうに顔を逸らす。

ドアがノックした後、朱梛の母が二人分のココアを持ってきてくれる。

朱梛母「二人ともお疲れ様。耀哉くん、いつもありがとうね」
耀哉「いえ。こちらこそいつもありがとうございます」

ココアを受け取る耀哉。

朱梛母「これくらい大したことないないわよ〜。耀哉くんが家庭教師してくれて頭が上がらないわ」
耀哉「最初は家庭教師なんて不安だったんですけど……高校以来まともな勉強してなかったし」
朱梛母「あら大丈夫よ! 耀哉くんはあの県下一の名門高校で首席だったんだし!」
耀哉「いやぁ……」
朱梛母「おかげさまで朱梛の成績もメキメキ上がったしね!」

朱梛の頭をわしゃわしゃする母。

朱梛「やめてよお母さん……」
朱梛母「慶明大学を受験するって聞いた時は大丈夫かしらと思っていたけど、耀哉くんのおかげで何とかなりそうねっ」
朱梛「何とかなりそうって……」

ココアを飲みながらブスッとする朱梛。

耀哉「俺の力じゃなく、朱梛が自分で頑張ったからですよ」
朱梛「耀哉くん……」※キュンとする

朱梛モノローグ:
芥川(あくたがわ)耀哉くんは、お隣に住む幼なじみ。大手企業に勤める25歳。
お互い母子家庭でお母さん同士が仲良くて、昔から耀哉くんは私の面倒を見てくれた。
優しくてカッコよくてお兄ちゃんみたいな耀哉くん、だけど――」

母が退室して二人きり。

耀哉「にしても最初より本当に成績上がったよね」
朱梛「でしょ!?」
耀哉「最初は過去問一問も解けなくて先は長いなぁと思ったのが懐かしいよ」
朱梛「う、うるさいなぁ!」
耀哉「でも朱梛がすごく頑張ってるから、俺も頑張らなきゃなってパワーもらえた」

優しい眼差しで朱梛を見つめる耀哉。
その視線が嬉しいけどムズムズする朱梛。

朱梛「〜〜っっ、だって! 慶明の学祭すごかったんだもん! オープンキャンパスも良かったし、ここで大学生活送れたら絶対楽しいだろうなぁって思ったんだ」
耀哉「へー」
朱梛「それにね! 慶明といえばイケメン揃い!」
耀哉「……」※ピクッと反応
朱梛「女子高は女子高で楽しかったけど、やっぱり大学生になったら恋がしたい」
耀哉「……朱梛、彼氏欲しいの?」
朱梛「欲しいよ! イケメン彼氏と楽しいキャンパスライフ送るのが夢!」
耀哉「ふーん……」

朱梛モノローグ:
「だって、慶明大クラスのイケメンじゃなきゃこの恋から卒業できない。
耀哉くんは私のこと妹みたいとしか思ってないんだもん――……。
だからいい加減不毛な初恋から卒業して、大学では新しい恋を始めるんだ!」
意気込む朱梛。

耀哉「…………」
意味深な表情を浮かべる耀哉。


○合格発表当日・慶明大学
受験番号が貼り出されたボードを確認する朱梛。

朱梛「あ、あった……」

飛び上がりながら喜ぶ朱梛。

朱梛「あったーー!! やった、やったーー!!」
朱梛(夢みたい! あの慶明大学に合格しちゃったよ……!!)

涙ぐみながら母に電話をかける。

朱梛「お母さん、受かったよ……!!」
朱梛母《本当に!? おめでとう! すごいじゃない!》
朱梛「耀哉くんのおかげだよ〜〜」
朱梛母《朱梛が頑張ったからよ! 今日はお祝いね! 耀哉くんたちも呼んでお祝いしましょう!》
朱梛「お母さん……」


○夜・朱梛の自宅
朱梛、朱梛の母、耀哉、耀哉の母、弟の文哉(ふみや)とご馳走を囲む。

『カンパーイ! 合格おめでとう!』

大人はビール、朱梛と文哉はジュースで乾杯。

耀哉母「すごいじゃない、朱梛ちゃん。慶明大に受かっちゃうなんて!」
朱梛「えへへ〜」
耀哉「おめでとう、朱梛」
文哉「おめでとー」
朱梛「ありがとう! ほんとに耀哉くんのおかげだよ!」
耀哉「いや朱梛の努力の賜物だよ」
朱梛(耀哉くん……!)
朱梛「てゆーかブンちゃんも高校合格おめでとう!」
文哉「ありがと」
耀哉「文哉は推薦でサクッと決めたよな。もう少し上の高校目指せたのに」
文哉「いい。彼女と同じ高校行きたかったから」
朱梛「えっ!? ブンちゃん彼女いるの!?」
文哉「うん、小学生の時から付き合ってる」
朱梛「小学生!?」
朱梛(い、いつの間に……昔はかわいかったのに)
耀哉「そうだ、朱梛。はい、合格祝い」

紙袋を手渡す耀哉。

朱梛「えっ、うそ、ありがとう! 開けていい?」
耀哉「うん」

中を開ける朱梛。中身は文庫本。

朱梛「わっ! 夏目(なつめ)はゆる先生の新刊だぁ……!」
朱梛母「あら、朱梛が好きな小説家の?」
朱梛「そう! 新刊ずっと読みたかったんだけど、受験が終わってからって我慢してたの!」
文哉「それって、」

耀哉、文哉の口を塞ぐ。

耀哉「ページ開いてみて」

朱梛がページを開くと、夏目はゆるのサインが書かれている。

朱梛「えーーっ!! サイン入り!?」
耀哉「たまたま書店でサイン本売ってたんだ」
文哉「いやそれ、いたっ」

耀哉、文哉の足を踏みつける。

朱梛「え、めちゃくちゃ嬉しい。ありがとう、耀哉くん!」
耀哉「ううん、喜んでもらえて良かった」

朱梛モノローグ:
「夏目はゆる先生は私の大好きな推し作家。
中学生の時、小説投稿サイトで夏目先生の小説と出会って以来ずっとファンなんだ。
1年後には小説家デビューし、出版された書籍は全部持っている」

朱梛(夏目先生のお話はキャラクターが活き活きとしてるところが魅力的なんだよね。読むの楽しみだなぁ)
朱梛(私に才能があったら自分でも小説書いてみたいなぁと思うけど――)


○大学の入学式
新品のスーツ姿で緊張している朱梛。
髪は茶髪に染めて耳にはピアスが空いている。

朱梛(ついに入学式……! 思い切って髪染めてピアス空けてみたりしたけど、変じゃない!? 似合ってるかな?)

深呼吸する朱梛。

朱梛(……よし!)

○大学の講堂
朱梛(もうグループできてる? どうしよう、大学って人数がすごく多いから友達の作り方がわからない……)
???「隣、座ってもいいですか?」

話しかけられて嬉しそうに振り向く朱梛。

朱梛「! はいっ!」

スーツ姿の耀哉のアップ。

朱梛(えっ……)
朱梛「か、耀哉くんっ!?」
耀哉「おはよう、朱梛」
朱梛「おはようじゃなくない!? なんでいるの!?」
耀哉「俺も合格したんだよね」

スマホの合格通知を見せる耀哉。

朱梛「嘘でしょ!?」
耀哉「ずっと朱梛の勉強教えてたおかげか余裕で受かった」
朱梛「いや、会社は!?」
耀哉「辞めてきたよ」
朱梛(な、なんですと!?)
耀哉「父さんが亡くなってから俺が大黒柱として母さんと文哉を支えなきゃって、高校出てからすぐ働き始めたけど本当は大学に通ってみたかったんだ。文哉も今年から高校生だし、自分のしたかったことやってみたいなって」
朱梛「耀哉くん……」
朱梛(そっか、ずっと家族のために頑張ってたんだもんね……)
耀哉「そういうわけだから、よろしくね? 朱梛」

ニコッと微笑む耀哉(悪戯っぽく不敵に)。

朱梛「よ、よろしくね……?」
朱梛(耀哉くんから卒業するつもりだったのに、なんでこうなっちゃうの――!?)