会いたくて逢いたくても彼はいない。~ Where Yesterday Sleeps(昨日が眠る場所)~

「莉桜、大人!」

大人って私より6歳上の課長に言われて笑いが込み上げてきた。
この会社で課長になるって相当の実力と努力をした証。

「生きてる人間の方が怖いかもね」

なんだかんだで課長も現実派。
そんな課長の下だから色々と考えず悠々自適に仕事をさせて貰えてる。

「課長脱線してますって!」

テレビに釘付けだった光が振り返り課長の話を戻しにかかった。

「そうだった。記念すべき30回目だったっけ?」

せっかく話逸れたのに。

「違います。20回目」

ほらまたタイムリープが始まったし。

「いい加減断ること覚えたら?莉桜の悪い癖だよ」

二人の話を無視する私に光が笑って
私の大好物である天水(てんすい)新作の
幸せを呼ぶと話題のグリーンアップルゼリーをノートパソコンの隣に置いた。

「そう言われても」

20回目のお見合いも男性側からのお断りで静かにフェードアウト。
それも1、2回のことじゃなくて20回全部がお相手からのお断り。

「持って来られるお見合い全部受けるとか止めて少しは選びなよ」

光は「美味しい」と私にくれたはずのゼリーを口に含んだ。

消したい過去があるからそれは出来ない。
光の気持ちも課長の心配も有難いし感謝もしてる。
でも過去の記憶を消し去って先に進みたい。

「やってることはマッチングアプリのリアル版と思えばお見合いも悪くないよ」

幸せの感覚って人それぞれ。
透き通ったゼリーの中には星を模(かたど)った青りんごが入ってる。
このゼリーひとつで幸せと感じれるならどれだけ私も幸せかな…

私は微かに感じれるはずの幸福感を遠い昔に置いて来てしまったと思う。