会いたくて逢いたくても彼はいない。~ Where Yesterday Sleeps(昨日が眠る場所)~

「味は変わらないですけどね」

24時間営業の牛丼屋さんはファミレスと違って目立たない場所だからバイト終わりの
私と天体観測を終えた先輩と二人でよく食事をした。

「彗も大盛りでしょ?アイツも細いくせに食べたもんな」

「頂きます」と手を併せ割りばしを割って最初に紅しょうが。

「やっぱり同じです。手を併せて軽く目を閉じるとことか紅しょうがから行っちゃうとことか」

「えっ?自分では気付かなかった!俺にもそんな癖あったんだ」

嬉しそうに笑ってくれるのが私も嬉しい。
先輩が居た事実いや現実を再確認出来た気がする。

遠い昔のことで風化していくのが嫌だった。
消えて行く先輩との思い出を忘れたいでも忘れたくなくて、眠れなくて…居ない現実を受け止められずにいた。

「良いきっかけかな…」

「何か言った?冷めるよ」

西野さんを見てると温かい気持ちになる。

「ははっ」
「何だよー!」
「別に?気にしないで食べて下さい」

もう少し黙っていよう。
頬(ほほ)にご飯粒が付いた彼が微笑ましくて気付くまで私の秘密。



「莉桜ー!間に合わない…もう私の社会的地位が落ちるのも時間の問題なのよ…。私、頑張ったわよね!莉桜」

「そうですね。良く頑張りました。課長、地位が落ちる前に早く私の記事に目を通して下さい」

「もう冷たい!仕事山積みの私に優しい言葉を少しはさぁー」

ブツブツと「旦那と会ってない!」「旦那と旅行!」とか呪文を唱えてる。

年上でいつも頼りになる上司。
夫婦仲も最高。

「羨ましいです」

心からの声。
こんな風に思える人が私にも出来たら良い。

「莉桜には西野くん居るじゃない。明日最後の打ち合わせでしょ」

「まぁ…そうですね」