会いたくて逢いたくても彼はいない。～ Where Yesterday Sleeps（昨日が眠る場所)～

「じゃあ、デート？」

「紅、いきなりかよ」

紅さんの直球ストレートな言い方は裏表なくて好き。
そんな彼女を操縦する塩谷先生は大変だと思うけど。

「西野です。今日は鈴木さんの運転手で…」

上手くかわす西野さんに心の中で感謝する。

「運転手を連れた莉桜ちゃんって昇進したのねー。今度詳しく教えてよ？それで今日は加藤主任にかな？でも…」

主任と肩書のある加藤 百合子(かとう ゆりこ)さんに会いに来たんだけど今日はお休みらしい。

「またおいで！今度はうるさい京祐(きょうすけ)の居ない時にでも」

「お前は俺が見てないと何するか分からないだろ」

紅さんを語るには伝説的な出来事の数々にここで１日が終わってしまう。
後で武勇伝は西野さんに話すとして彼らと少し話をして車に戻った。

「加藤さんて？」

シートベルトを装着してエンジンを掛けた彼は私を覗き込む。

「高校の図書室で司書をしてた人ですね。先輩のファンから私達を匿って司書室を貸してくれたりとゆかりのある人だったんで」

「そうなんだ。会いたかったな…。彗の本当の姿を知ってる数少ない一人だと思うし」

本当に残念そうにしてくれる西野さんに嬉しくなる。

他に先輩の話を出来る人は居ないから。

「先輩の本当ってどれだったんでしょうか」

普段学校での先輩はクールと言うか物静かで落ち着いた印象。
私が知ってる先輩の姿は星や宇宙に興味があってそれに…

「鈴木さんに見せてた全てが彗の全部だと思うよ。これもね」

目の前には大盛り牛丼と大量の紅しょうが。
食べ方も先輩と西野さんは同じでクスッと笑ってしまう。

「昔の頃と変わったなー」

苦笑いの気持ちも分かる。
高校から少し離れたこの牛丼屋さんは今はカップルのデートスポット。

昔はサラリーマンの憩いの場が今では記憶を失った男性とそんな彼を愛した女性が結ばれたと噂になって今では恋愛のパワースポット的な場所になってる。