会いたくて逢いたくても彼はいない。~ Where Yesterday Sleeps(昨日が眠る場所)~

どこに最初に行くのが正解なのか?
正解ってあるのか?
何も分からず私は西野さんの後を追うしか出来ない。

「スタートの場所はここからかな」

「懐かしい!」

「やっと笑った」とハンドルに頭を乗せて視線を私に向けてくる。

先輩と私の通った高校の正門近く。
夏休み期間で生徒はまばらで元気の良い部活生の掛け声のみが運動場から聞こえてくる。

「勝手に抜け出して課長怒ってますよね」

あのまま出てきて全部置いたまま。
課長の眉間にシワを寄せた顏が頭に浮かぶ。

「そこは連絡入れたから大丈夫。荷物は長谷さん?に預けたらしいよ」

「私、また迷惑掛けちゃいましたね。本当になにやってるんだろう」

仕事を早退して荷物もそのままって…

「今日は高校時代と考えなよ。授業をサボってる的な」

ははっと笑ってくれたけど西野さんだって暇な人じゃない。
お互いスケジュール調整に苦労してるとこだったし。

「俺も彗を思い出したいんだから付き合って」

ポンっと頭に乗せられた手が優しくて私も覚悟を決めて過去を思い出す。

「次は何処に行く?」

と言う彼に「図書館に」と告げると彼は
ウインカーと共にアクセルをゆっくり踏み込んだ。


日本でも有名な星名総合病院内にある図書館は先輩との思い出の場所では…ない。
この図書館自体は昨年新設されたばかり。

「紅(べに)さーん」

綺麗な黒髪を束ねた女性と白衣姿の男性は
私の声に反応し手を振り駆け寄ってきた。

「莉桜ちゃん、今日は休みなのー?」

紅さんは大きなお腹を擦りながら綺麗な顏に意地悪な笑顔。

モデルのような彼女と隣のこれまたイケメン脳外科医の塩谷(しおや)先生に「違います」とだけ笑って話題を避けようとする。