会いたくて逢いたくても彼はいない。~ Where Yesterday Sleeps(昨日が眠る場所)~

「あれ…」

さっきまで座ってた場所から手帳が無くなってる?
手帳を開いてスケジュールを確認して…ここに置いたままだったはず。

「どうかしました?」

「いえ、えっと…課長…課長ですよね?どこに…」

本当の胸の内は穏やかじゃない。
震える声を我慢して西野さんに微笑む。

手帳が問題じゃなくて挟んでたお守りが無いことが問題。

「ごめーん!ちょっと電話で離れてた…んだけど莉桜?」

課長は私を覗き込んで不安な顏をする。

「えっと、私はこれで」

探さないと。
あれは彼との唯一の繋がりで先輩からの最後のプレゼント。

「もしかして、探してる物って」

自販機横のゴミ箱近くに白い封筒の残骸が落ちてる。
白い封筒に入ってたはずのメッセージカードとプラネタリウムのチケットは破かれて元々存在すらしてなかったみたい。

あれは…彼と私を繋ぐ大事な物。
サーっと血の気が引いて行く。

「あんなのに焦っちゃって」
「わざとじゃない?イケメンの前だからって焦ったふりしちゃって」

クスクス遠巻きに見てた女性達の声に怒りより落胆しかない。

「あなた達の仕業なの?!」

「パソコン触ったわけじゃないし」
「落ちてたゴミを捨てただけです」

そう言われたら疑いようがない。
彼女達にとっては古びた封筒にしか見えなくもないのは事実。

「課長、ただの封筒ですから気にしないで下さい」

ジャケットの裾を掴み課長を止めた。

「最低ですね」

「あ、あの!西野さん」

ゴミ箱の蓋を取り中からバラバラになった紙切れを拾っていく。

「あなた達はちょっと来なさい」

遠巻きの女性達に課長は一喝して西野さんとの打ち合わせで使用許可を貰ってた会議室に
連れて行った。