会いたくて逢いたくても彼はいない。~ Where Yesterday Sleeps(昨日が眠る場所)~

「死んだ男とでも間違えた?」

「なっ、」

「図星?」

死んだ…。
そう私の知ってる彼は10年以上も前にこの世を去ってる。
皆んな涙を流してたし学校で黙祷もした。

だから絶対この世に彼は居ない。

「いえ、別に」

「図星」と言う言葉にはっきり違うと言えない。
それだけ似すぎてるから。

「うなされてたけどね。汗、」
「触れないでっ…下さい」

私の額に触れようとした彼の手を跳ねのけた。

「挨拶もまだなのにごめん」

「こちらこそ、すみません」

首筋にあった小さなホクロが彼にはない。
当たり前なのにズキッと胸が痛い。

「改めて、西野 陸玖(にしの りく)です」

「鈴木 莉桜と申します。ご迷惑をおかけしました。取材は後日お願いしても宜しいですか」

「それは構わないけど。俺が苦手なら他の人と変わっても」

「それは無いです。仕事ですから」

これは仕事で簡単に断れることじゃない。
それに“これはイヤあれはイヤ”とワガママ言える立場でもない。

「分かった。じゃあ、これから宜しく」

出された右手を今度は払うことなく私も握った。

「ふふふ…」不気味な笑い声に入口に目を向ける。

「仲良くなったのね」
「課長!」

医務室のドアからこっそりと覗いてる。
背後には江本さんの姿が見え隠れして面白くてぷっと吹き出してしまった。