私の中にあるモノ

それにしても、と。

私は、ムメイちゃんがさっき言った言葉を、頭の中で反芻した。

竜人研究所の…昔の研究の本…?

「ムリカお姉ちゃんは、これ、読んだことある?」

「え。…っと…」

どうなんだろう。

もしかしたら、過去の私は読んだことがあるかもしれない。

いや…。無いのだろうか?

此代曰く、私は祖竜の挿し絵が入った、あの古い本ばかりを読んでいたそうだから。

別の本は、あまり読んだことがないのかもしれない。

いずれにしても、記憶を失ってしまった私に、その本を読んだ覚えなど、あるはずがなかった。

「どうかな…。覚えてないんだ」

「そっか…」

私は、テーブルの上に置かれたその分厚い本を、じっと見つめた。

よく見ると、それは本と言うよりは。

詳細な、研究報告のレポートを一冊にまとめたものだった。

その研究報告レポートは、細かく小さな字で、様々な研究の成果を記載していた。

これは、確かに難しいね。

私でもよく分からないのに、ムメイちゃんにはいくらなんでも、難し過ぎるだろう。

「こんな本があったんだね…」

呟きながら、私はパラパラと、何気なく本のページを捲った。

その瞬間。

「…!」

捲ったページの見開きに、大きな白黒写真が印刷されていた。

一人の女性が、ベッドに縛り付けられている写真だった。

右半身に、たくさんの点滴の管や、薬液を注入するチューブに繋がれ。

顔面はほぼ完全に崩壊し、何処が目なのか、耳なのか、口なのか鼻なのか分からない。

頭髪は完全に抜け落ち、傷つき、破れた頭皮の隙間から、ぐじゅぐじゅになった脳みそが滲み出している。

ボロボロに傷つき、それでも生きていた。

片方しかない濁った目が、力なくカメラの方を向いていた。

こんな状態になって、何故この写真の女性が生きているのか。

その理由は明白だ。

彼女の左半身は、鱗で覆われていた。

竜の鱗だ。

ところどころが剥がれて、血管が剥き出しになっているが。

それでもこの女性は、人であり、竜だった。

だから、こんな状態になっても生きている…。

ムメイちゃんに、このショッキングな写真を見せないよう。

私は慌てて、本のページを閉じた。

焦りながら横を振り向くと、ムメイちゃんは。

「…?」

不思議そうに、首を傾げていた。

…良かった。どうやら、見ていないようだ。

この本は危険だ。

私は、本能的に危機感を感じた。

これ以上、ムメイちゃんに見られないよう、そのままぱたんと、本を閉じてしまった。

「この本は、ムメイちゃんにはまだ難しいと思うよ」

「…!そうなの?」

「うん。だから、読むなら別の本を読もうか」

「うん、分かった!」

…ムメイちゃんが、素直な良い子で助かった。

それでも私の頭の中は、先程のショッキングな写真のことでいっぱいだった。