私の中にあるモノ

…近江ムライカが亡くなった知らせを聞いた、その翌日。

そろそろ訓練に戻るように、と言われた私だが。

とてもそんな気分にはなれなかった。

だって、何の意味があるの?

いくら訓練を頑張ったって、シンクロ率が上がったって。

ほんの少し寿命が延びるだけで、死の運命は変わらない。

それに、山口の理屈で言うと。

私のシンクロ率が上がってしまったら、また記憶喪失が起きるかもしれない。

私は、私の身に起きたことをこれ以上、忘れたくない。

…例え寿命が縮んでしまったとしても。

大切なことは全部、覚えたまま死にたい。

…そんな考えから、私は訓練には参加しなかった。

行く当てもなく、代わりに、図書室に行った。

ここに置いてある僅かな本が、自分の心の空白を、埋めてくれるとでも思ったのだろうか。



…すると。

図書室には、先客がいた。

まだ小さくて、5歳か6歳くらいの女の子。

額に、ぴょこん、ぴょこんと2本のツノが生えていた。

私と同じ、竜人だ。

小さな竜人の女の子。

その子には、目が一つしかなかった。

右目はちゃんとあるが、左目は潰れ、硬い鱗のようなもので覆われていた。

普通の人間にとっては、かなり痛々しい見た目だろう。

だが私は、まったく恐ろしいとは思わなかった。

私達竜人の成功検体は、無事に生まれてくることが出来るだけで、奇跡のような存在なのだ。

それに、生まれてくることが出来たとしても、私や近江さんや此代みたいに、五体満足で誕生出来るかどうかは分からない。

あの子みたいに、片目がなかったり、足がなかったり腕がなかったり…。

身体に、何らかの欠損がある場合も珍しくない。

彼女は、片目が潰れてしまったパターンなんだろう。

だが、それが何だと言うのか。

今、こうして、無事に生きているのだから。

それ以上大切なことなんてない。

その子は目の前に大きな本を広げ、熱心に読んでいた。

その姿が、私は先日見た…立葉ムダナちゃんと重なって見えて。

無意識に、彼女に近づいていった。

「…随分と熱心なのね」

そんな真剣な顔をして、一体何を読んでるの。

…すると。

「あ…。ムリカお姉ちゃん!」

その子は顔を上げて、私を見るなり。

私の名前を呼んで、はしゃいだ声をあげた。