私の中にあるモノ

なんてことだろう。

これで5回目、だなんて…。

じゃあ、私は…これまでも過去に、4回も記憶を失ったってこと?

なんで…?

いくら記憶を積み上げても、その度に失ってたんじゃ…。

「前回は8ヶ月前…。…ふむ。1年以内に記憶喪失が『再発』したのは、これが初めてだな…」

「…」

山口教授は、私についての記録が記されているらしいファイルを眺めながら、そう呟いた。

「ま、良いや」

何が良いの?

「とりあえず、そこに座って」

山口教授は、丸椅子を指差した。

…指示されるままに、私はその丸椅子に腰掛けた。

本当に、病院の診察室みたいだ。

ここは研究室らしいけど…。

「教授、私はこれで…」

「あー、うん。また後でね」

「失礼します」

私をここまで連れてきた篠森さんが、研究室を辞した。

これで、研究室には私と山口教授、二人だけだ。

…。

「さて、これから君に、色々と質問していくけど…」

「…その前に、一つ聞かせて」

「んー?」

「…あなたが、山口教授?」

「うん」

あっけらかんと頷く、山口教授。

…ふーん…。

「そう…」

「…そんなことまで忘れちゃったのかー。これでも、君がまだこんなちっちゃな頃から、君の面倒を見てきたんだけどな」

山口教授は、指先でビー玉でも摘むようなジェスチャーをしてみせた。

例え記憶喪失じゃなくても、そんなビー玉サイズじゃ、覚えていられるはずがないでしょう。

「じゃあ、私を造ったのはあなたなの?」

「うん、そう。君は、俺が造った119人目の成功検体」

せいこう…けんたい?

「それは何…?」

「君のことだよ。君のような…竜人のことさ」

りゅうじん…。

りゅう…。…竜。

「…」

「何が何だか、って顔をしてるね。まぁ、記憶がなくなってるなら、無理もないけど」

「…ここは何なの?あなたは一体、何を造ろうとしてるの?」

「この施設は『国立疫病研究センター』。だけど、それは表向きの名前。本当の名前は…『竜人研究所』」

私は山口教授の言葉を、ぼんやりと聞いていた。
 
この時の私は、彼の説明を100%理解した訳じゃなかった。

ただ、この場所が「普通じゃない」ことも。

そして、何より…自分が「普通じゃない」ことだけは、よく分かった。

「君は、今は滅びた尊き種族…『竜』の血を引いた人間、半竜半人の『竜人』なんだよ」

何でもないことのように、山口教授は軽い口調で言った。

竜…。竜人。私が…。

…その時、私は初めて。

自分の額に、15センチほどの鋭いツノが生えていることに気づいたのだった。