私の中にあるモノ

長い廊下を歩いて、そこから階段で、上のフロアに上がった。

歩きながら、篠森さんが建物の構造を説明してくれた。

「この施設は6階建てで、フロアごとに用途が違っているの」
 
「そうなの…」

「えぇ。1階と2階は訓練室のフロア。3階は病棟フロアで、さっきあなたがいた4階は、居住フロア。今向かっているのは5階…。研究室と実験室のフロアよ」

居住フロア…。

成程、それで…似たような部屋がたくさん並んでいたんだ。

ということは…あのたくさんの部屋一つ一つに、私のようにこの建物に住んでいる人達がいるんだ。

それから…1階と2階は、訓練室のフロアだそうだ。

訓練室って、何だろう…?何の訓練?

私、そこに行ったことがあるんだろうか。記憶がないだけで…?

それと、3階は病棟フロア…。…つまり、医務室みたいな場所なんだろう。

で、今向かっているのが5階…。研究室と実験室のあるフロア。

…それじゃ。

「…6階は?」

「ん?」

「6階は何があるの…?」

篠森さんは、6階については説明しなかった。

説明する代わりに、人差し指を口の前に立てた。

「それは、あなたにはまだ話せないわ」

「…」

話せない。…まだ。

まだ、ってことは…。

「いつかは、話してもらえるの…?」

「あなたにその資格があれば、いずれ話すこともあるでしょう。その目で見ることも出来るかもしれないわね」

「…」

…別に、見たい訳じゃないけど。

「それに、あなたが忘れているだけで…行ったことはあるのよ」

「え…?」

「残念ながら、その記憶もなくしてしまってるみたいだけど」

「…」

…そうだったんだ。

じゃあ、もし記憶が戻ったら…6階に何があるのか、思い出せるかもしれない。




…そんな話をしているうちに、私と篠森さんは、5階に辿り着いた。

5階にも長い廊下があって、いくつも部屋が並んでいて。

そのうちの一つ…部屋の入り口に、「山口」というプレートが貼られた研究室の前で、私達は立ち止まった。

篠森さんは、研究室の扉をノックした。

「教授、篠森です。皆宮さんを連れてきました」

「あぁ、うん。…どうぞー」

部屋の中から、間延びした男性の声が聞こえてきた。

「失礼します」

篠森さんが、研究室の引き戸を開いた。

まるで、病院の診察室のような部屋だった。

白い長テーブル。壁には白いボード。反対側の壁際には、背の高いラックが置かれており。

そのラックの中には、分厚いファイルがいくつも並んでいる。

部屋の主は、中央にある丸椅子に腰掛けて、大きなモニター付きのパソコンと向かい合っていた。

篠森さんと同じ、白衣を身に着けた男性。

部屋に入ってきた私達に向かって、彼は軽快に片手を上げて挨拶した。

「やぁ、皆宮。いらっしゃい。調子、どう?」

「…」

…って、聞かれても…。

「…あ、ごめん。記憶、なくなったんだっけ?調子も何もないかー」

「…そうだね」

「うーん。何がいけないんだろうな?君が記憶を失うの、これで4…いや、5回目だったっけ?」

「ごっ…」

…5回目?嘘でしょう?