私の中にあるモノ

「…うん。ちょっと、考え事かな」

「そうか?…邪魔されたくないなら、邪魔しないけど」

「ううん…。…邪魔しても良いよ」

どうせ、いくら考えても答えなんて出ない問題だから。

私の矮小な頭じゃ、とても考えが及ばない。

「丁度、一人で行き詰まってたところだから…」

「そうか…。まぁ、こんなところで生きてたら…誰でもなぁ…」

此代はそう言いながら、私の隣に腰を下ろした。

…。

「…ねぇ、此代」

「何だ?みなっちゃん」

「昨日の夜のこと…。…知ってる?」

「…。…6人、脱走したんだろ?」

…やっぱり。

此代も、もう聞いてたんだね。

「訓練室じゃ、みんなその話題で持ちきりだよ。…研究者達も、特に隠してはいない…って言うか、隠そうと思っても隠しきれないだろ」

深夜とはいえ、あれだけ派手に動いていればね。

特に、竜族の血を引いた私達は、人間よりも勘が鋭い。

昨夜何があったかなんて、隠そうと思っても隠しきれない。

今や研究所にいる全ての人々が、昨夜の事件のことを知っている。

「脱走なぁ…。…自分は考えたことなかったけど…。…追い詰められたら、そういう発想になるのかね」

「…此代は、脱走した彼らと知り合いだったの?」

もしそうなら、友人を亡くして辛い思いをしてるんじゃないかと思った。

「さすがに全員とは…。でも、むとっくんとは何回か話したことがある。それと、むだっちゃんとも」

それ、武藤くんと、ムダナちゃんのこと?

「脱走した6人共、シンクロ率が相当低くなってたんだよな?」

「…うん」

「そうか…。じゃあ、寿命が…。…って、みなっちゃんはその辺のことも、忘れてるんだっけ?」

そうだね。忘れてた。

でも。

「武藤くんが教えてくれた…。…脱走する前に…」

「…え…。むとっくんと話したのか?」

「昨日の夕方、私も脱走に誘われたの。一緒に加わらないかって」

「…」

これには、此代もさすがに驚いた様子だった。

「私は…脱走には参加しなかったけど…」

「…そうか…。みなっちゃんも一緒に…。…危ないところだったな。一歩間違えたら、今頃みなっちゃんも…」

「…」

海の藻屑…ならぬ。

湖の藻屑になってたところかもしれないね。

それはそれで、悪くないのかもしれないと思い始めていた。

どうせ、何年か後には…私だって…。

「じゃ、みなっちゃんも寿命のことは聞いたんだな」

「…。…うん」

出来れば、聞きたくなかったことだ。

こんな辛いことは…。…誰だって、知りたいはずがない。