私の中にあるモノ

…どうして、そんなことを。

「それに、研究所の防衛装置が正常に稼働することも確認出来た。こればかりは実践する訳にはいかないから、使うのは初めてだったんだよね。いやぁ安心したよ。ちゃんとヘリを撃墜、」

「…山口…!」

「おっと」

双眼鏡を片手に、満足そうに喋り続ける山口に詰め寄った。

「あなたって人は…。あなたという人は…!なんてことを…!」

「あれぇ…?何怒ってるの、皆宮…」

何怒ってるの、じゃない。

私が人間じゃないからって。竜人だからって。記憶喪失だからって。

怒りや悲しみの感情が、消えてなくなる訳じゃない。

「彼らは…ただ、生きていたかっただけなのに…!」

その当然の権利さえ、あなた達は一方的に奪い取った。

許せることではなかった。

「皆宮、何をそんなに怒って…。…脱走した検体と知り合いだっけ?えぇと…脱走した6人…なんて名前だったかな?」

「武藤くんだよ…!武藤くんと、芦田さんと、ムダナちゃん…」

「あぁ、思い出した。武藤ムカチ。芦田ムガク。立葉ムダナ」

この男。

自分が造った検体の、その名前さえちゃんと覚えていないのか。

「武藤ムカチはシンクロ率が生存ギリギリの数値だったから、これは長生きしないなぁと思って、無価値って名前をつけたんだけど。いやぁ、最期にこんな良い働きをしてくれるなら、もうちょっとマシな名前をつけてやればよかっ…」

「山口!」

これ以上、武藤くん達を。

死者を、愚弄するのは許せなかった。

私は山口の胸ぐらを掴み、挑むように彼を睨みつけた。

「どうして、あなたはっ…!」

「…何を怒ってるんだ?皆宮は…」

…また、そんなに馬鹿にして。

「武藤ムカチを殺したことに怒ってるのか?…仕方ないだろう?あのまま脱走を許す訳にはいかなかったんだ。…むしろ、ミサイルで撃墜して、一撃で死なせてやったんだから…。身体が崩壊して死ぬよりマシだろう?」

「っ…!」

そう、そういうこと。

つまりあなた達は、脱走した彼らを「優しく」死なせてあげた訳ね。

外の世界への憧れを抱いたまま、冷たい湖の底に沈めてあげた訳ね。

それがあなた達の、脱走者に対する「温情」なのね。

…そんなこと、本当に彼らが望んでいたとでも?

「これも、壮大な竜人計画の大きな一歩だ。これまで逃げ出すことなんて、考えもしなかった竜人達が、ついに脱走という発想に至った…」

「…」

「知ってるかい?武藤ムカチはヘリを奪う時、パイロットを殺さず、交渉をしたそうだよ。『傷つけるつもりはないから、降りてくれ。ヘリを使わせてくれ』って。お優しいことだよね」

「…やめて」

「ヘリの操縦なんて、いくら竜人でも、知らないと思うけど。見様見真似で操縦して、離陸してるんだから、凄いよね」

「やめて。もう…」

「さすが、シンクロ率が下がってても、竜人の適応力には頭が下がるな。それはそうと、今後はもう少し、島の防衛体制を強化しないと…」

「もうやめて!!」

どうして、あなたは。

竜人である私に、平気でそんなことが言えるの?