私の中にあるモノ

「…」

白い壁、白い廊下がずーっと続いていた。

学校みたいな、病院みたいな、どっちつかずの場所だった。

…いや、私は学校にも、病院にも行ったことがない…と言うか。

行ったことがあったとしても、その記憶を忘れているだけかもしれないが…。

部屋の中には窓がなかったのに、廊下の壁には窓が続いていて、そこから中庭の景色が見えた。

私は窓にすり寄って、中庭をじっと見下ろした。

中庭には、中央に大きな噴水があって。

その周りに、何種類もの花々が植えられていた。

どうやら建物は、中庭を囲んでコの字型に建てられているらしい。

私が今いるフロアは、4階のようだ。

4階…。

下の階には…そして上の階には、何があるのだろう?

別のフロアのことも気になるけど、まずは自分のいる場所を確認するのが先だった。

しばし、窓から中庭の景色をじっと見つめていたが。

私は、今自分がいた部屋の方を振り返った。

私のいた部屋の隣には、また別の部屋の扉があって。

その隣にも、その隣にもずっと…同じような部屋が続いていた。

…一体、いくつ部屋があるんだろう?

この部屋の中には、私と同じような…。

「…」

私は施設の廊下を、真っ直ぐに歩き始めた。

このフロアは静かだ。

死んだように静まり返っていて、人の気配を感じない。

誰かいないだろうかと、しばらく歩き続けると…。

「…あら?皆宮(みなみや)さん?」

「え?」

曲がり角を曲がった先で、向こうから急ぎ足で歩いてきた人物と、ばったりと出くわした。

…びっくりした。

白衣を着て、白い分厚いファイルを胸に抱えた女性が、驚いた表情で私を見つめていた。

「てっきり訓練室に行ってるものだと思ってたわ。まだ眠っていたの?」

「…あ…えぇと…」

訓練室…?

それは、この建物の何処かにある部屋なの?

「それとも、何か気になることでもあった?」

「…」

…ごめんなさい。

この人が何を言ってるのか…私にはさっぱり。

それに…さっきこの人、私のこと皆宮って言った?

「それ、私の名前…?」

「え…?」

「皆宮さん、って…私の名前なの?」

「…」

私の発言に、今度は白衣の女性が驚く番だった。

彼女は虚を突かれたように、しばしぽかんとして。

「…皆宮ムリカ。あなたの名前よ。…覚えていないの?」

と、私に問いかけた。

皆宮…皆宮、ムリカ。

それが、私の名前…。

「…」

自分の名前を聞いたのに、まったく身に覚えがなかった。

まるで、他人の名前を聞いているかのようだった。