私の中にあるモノ

「…どうにか出来ないの?」

ムダナちゃんは、死の恐怖に怯えていた。

いつ始まるか分からない、だけど確実に迫っている身体の崩壊に…。

「シンクロ率の低下が問題なら…何とかして、シンクロ率を上げれば…」

今からでも、身体を維持出来るのではないかと思った。

しかし、それは浅はかな考え以外の何物でもなかった。

武藤くんは、力なく首を横に振った。

「最低ラインを下回ってしまったら、もう無理だ…。ここからどんなに訓練しても、何をしても…上がらない。下がる一方だ」

「で…でも…」

「俺達は、元々それほどシンクロ率が高かった訳じゃないんだ。俺と芦田は、一番高かった時でも700には達しなくて…。そこから、段々と下がっていって…」

「…」

700…。

今朝山口から、私のシンクロ率は720だと教えられた。

これでも、私にしては下がっている方だと。

だけど、武藤くんと芦田さんは…私よりもずっと、シンクロ率が低い。

同じ竜人でも、個体によって、ここまでシンクロ率が違うなんて…。

「山口や、他の教授達も、もうとっくに匙を投げてる。最低ラインを下回ったら、俺達はもうおしまいだ」

「おしまいだなんて…。そんな…。きっと、何か方法が…」

「…無理だよ、馬鹿だな」

武藤くんは、悲しげに微笑んだ。

「分かるだろ?あいつらにとって、俺達は実験体なんだ。確かに稀な存在さ。滅多に生まれない、貴重なサンプルさ。だけど…俺達は所詮、いくらでも替えの利くモルモットなんだよ」

「…」

「死にかけたモルモットを延命させるより、新しいモルモットを造り出した方が、遥かに有意義だ…。…そうだろ?」

私は何も言えなかった。

自分がモルモットであること…研究者達にとって、私達などただの実験体でしかないことには、気づいていた。

だけど…それでも自分は「特別」なのだから、大事にされていると思い込んでいた。

でも、違うんだ。

その通りだ。当たり前だ。

私達の…命なんて。

ただの研究対象でしかなくて…。いつか、研究者達の論文の中の1行になるだけで。

この命に、他に何の価値もないのだ。

気づきたくなかった。でも…目を逸らす訳にはいかなかった。

「…それにね、皆宮…。私達は元々、そう長くは生きられないのよ」

芦田さんが、私にそう告げた。

出来るだけ私を傷つけないように、優しく…諦めきったような顔で。

「皆宮…あなた、今自分が何歳か知ってる?」

「え…。…それは…15、6だったと思うけど…」

昨日、山口の研究室で読んだ資料のことを思い出した。

自分で書いたらしい、「記憶喪失になった時の為の覚え書き」を。

そこに、自分の年齢も書いてあった。

「そう…。それなら、あなたの寿命は…長くても、あと5年ほどね」

「…!?」

「皆宮はシンクロ率が高いから、もう少し長生き出来るかもしれないけど…。…あと10年は、絶対に生きられない」

…信じられるだろうか。

突然、あなたの寿命はあと5年ほどです、なんて言われて。

ましてや今の私は…記憶喪失以外は、特に悪いところもないのに…。

「…元々、竜人の寿命は20年もないの。それ以上生きた竜人はいないわ」

「…どうして…?」

…そんなはず、ない。

私は、昼間に図書室で読んだ、竜に関する本のことを思い出した。