私の中にあるモノ

「………え」

私は、にわかに返事が出来なかった。

話しについていけない私に、武藤くんは更に説明を続けた。

「俺達は、シンクロ率が一定の数値を切ったら死んでしまう。竜の血と、人間の身体が順応出来ず、耐えられずに、身体が崩壊してしまう…」

「…」

「生命を維持出来る、シンクロ率の最低ラインは500。…これを切ると、もう崩壊は止められない。遠からず、崩壊を迎える」

…500。

そのシンクロ率が、私達竜人が生きられる…限界。

「先週行われた測定で…俺のシンクロ率は490だった」

武藤くんは苦しそうに、そう告白した。

「えっ…!」

490…って。

それじゃあ、武藤くんは…。

しかも、武藤くんだけではない。

「私は…480だったよ」

芦田さんまでもが、諦めきったような…悲しそうな口調で、そう言った。

…そんな。

二人共…竜人の身体を維持出来る、シンクロ率の最低ラインを下回っている…。

それじゃあ…それじゃあ、二人共…。

「…あなた達、二人共…。…もうすぐ…」

「…あぁ。遠からず、俺も芦田も崩壊する。…見ろよ、ツノなんて、もうボロボロだろ?」

武藤くんは、自嘲気味に笑って、自分のツノを指差した。

…半分が欠けてしまった、自分のツノを。

…竜の身体が、もう維持出来なくなってしまっている。

芦田さんも動揺だ。

シンクロ率が最低を下回った二人の身体は、もう既に崩壊を始めている…。

…そんな。

「…それでも、俺達はまだ…完全に崩壊するまでには猶予があるだろう。…問題は、立葉だ」

武藤くんは、芦田さんに寄り添っている小さな女の子…立葉ムダナちゃんを、手で差した。

「ムダナちゃん…?」

「直近のシンクロ率測定で、立葉のシンクロ率は…360だった」

「…!」

その数字は、当然、最低ラインを下回っていた。

絶望的な数値だ。

「一刻の猶予もない…。立葉はもう…この通り、喋ることも出来ないんだ」

「…!そんな…」

…さっきから、ムダナちゃんはずっと静かで、一言も話さなかった。

それはてっきり、見慣れない私を前に、緊張しているからだと思っていたけれど…。

…喋りたくても、喋れないのだ。

「間もなく、立つことも、歩くことも出来なくなるだろう…」

「どうして…?ムダナちゃんは、まだ…こんなに、幼いのに…」

「年齢は関係ない。シンクロ率は、俺達竜人の寿命だ。シンクロ率が低ければ、何歳だろうと死ぬ」

「…」

…そうだ。

そもそもシンクロ率が低ければ、この世に生まれてくることさえ出来ないんだって…。

山口が、そう言ってたじゃないか…。

シンクロ率を上げることは、すなわち生きること。

だからこそ、私達竜人の成功検体は、日々過酷な訓練を繰り返す。

あのおぞましい「訓練」は、生きる為に必要不可欠な行為なのだ。