私の中にあるモノ

研究所の中で、モルモットとして生きるか。

研究所の外で、バケモノとして追われる日々を過ごすか。

どちらがより…マシであるかなんて、言うまでもないはずだ。

「ここを出ても、もっと辛いことが待ってるだけだよ。それなら、安全が保証されてる研究所にいた方が…」

「…」

私は脱走の計画を思い留まらせようと、武藤くんを説得しようとした。

しかし、彼は。

「…安全が保証されてる?…何処が?」

私の言葉に、異議を唱えてきた。

「…そうじゃないの…?」

「何言ってるの、皆宮…」

芦田さんが、震える声で私に尋ねた。

「安全なんか、何処にもない…。いつ死ぬか分からないんだよ?私達は…。それに、この子…ムダナちゃんは…今にも…」

「…え…?」

「死ぬまでの安全が保証されてるってこと?…酷い皮肉を言うのね。シンクロ率が高いからって、自分は無関係だと…」

「…芦田」

私を責める口調になった芦田さんを、武藤くんが止めた。

「皆宮は記憶を失ってるんだよ。皆宮に悪気はないんだ」

「あ…。そ…そうだった。…ごめん…」

芦田さんはハッとして、バツが悪そうに私に謝った。

だけど、そんなことはどうでも良い。

芦田さんが今言ったことが、どうにも気になって仕方なかった。

死ぬ、って…?ムダナちゃんが…って…。

「ムダナちゃんって…そこにいる立葉さんのことだよね?」

「…うん」

芦田さんは、ぎゅっと立葉…いや、ムダナちゃんの手を握った。

ムダナちゃんは不安そうな顔をして、一言も話すことなく、私を見つめていた。

その瞳には、恐怖が宿っているように見えた。

…自分の運命、死の運命に対する恐怖が。

…武藤くん達は、私の知らないことを知っている。

「どうして…?どうして、ムダナちゃんが死んでしまうの…?」

「…山口は、皆宮に何も説明しなかったのか?」

え?

「説明…。…何を?」

「そうか…。山口のヤツ…。都合の悪いことは黙って…」

「…」

「…なぁ、皆宮。訓練は受けたんだよな?」

山口の名を、憎悪を込めて呼んだ武藤くんは。

顔を上げて、私にそう尋ねた。

「訓練…?…受けたけど…」

「そうだよな。その訓練を受けた時…何でこんな訓練を受けなきゃいけないのか、疑問に思っただろ?」

「…それは…当然…」

…どうしてこんな辛い思いをしなきゃいけないのか、って。

思ったよ、当然。

「だけど…それはシンクロ率を上げる為だって…」

「そうだな。それは間違ってない…。…でも、じゃあ、なんでシンクロ率を上げなきゃいけないのか、そこに関しては疑問に思わなかったか?」

えっ。

「そこまでしてシンクロ率を上げて、どうするのか…。…何の為にシンクロ率を上げなきゃいけないのか…」

「…」

「山口に聞かなかったか?」

「…うん」

聞かなかった。

疑問には思ったよ。…何の為に、って。

あんな辛い思いをして…シンクロ率を上げて…それで何になるのか、って。

「そうか。じゃあ教えてやるよ…。…俺達竜人の成功検体は、シンクロ率が下がったら死んでしまうからだ」