私の中にあるモノ

此代が…いつの間にかいない。

…そういえば。

1時間くらい前に、「集中力が切れたから、先に戻る」みたいなことを言っていたような…。

私、その時なんて言った?

無視してしまったような気がする。

申し訳ない。

図書室に案内してくれたのも、本を紹介してくれたのも、此代なのに。

気を悪くしていなかったら良いのだが…。…出来れば、明日謝ろう。

私は司書さんに頭を下げて、一番最後に図書室を出た。

廊下の窓から中庭の様子を見ると、外はもう暗くなり始めていた。

…記憶を失ってから、二日目の夜だ。

そういえば…今日は、近江さんに会わなかったな。

昨日、随分疲れてる様子だったから…。今日はゆっくり休んでいるのだろうか?

明日は、彼女も訓練室に出てくるだろうか…。

…そんなことを、廊下に突っ立ったまま、一人で考えていると。

「…皆宮さん。ムリカさん」

「?」

名前を呼ばれて振り向くと、そこに見慣れない人達がいた。

人…ではなく、相手も竜人だった。

竜人が3人。

「…」

3人の竜人達は、硬い、真剣な顔で私を見つめていたが。

私は、彼らをぼんやりと見つめ返してしまった。

彼らの…ツノを。

彼らは確かに竜人だ。ツノが生えているから。

でも、彼らのツノは…酷く歪だった。

真ん中の男性は、片方のツノが欠け、もう片方のツノは、根元だけが残って、あとはポキっと折れてしまっていた、

その右側にいる女の子は、両方のツノが半分ほどの大きさに折れ。

左側にいる女の子は、まだ5〜6歳くらいで、小指の先ほどの小さなツノが、ちょこんと生えているだけだった。

…珍しいツノの形してるな。

…生え変わり?生え変わりの時期なの?

ツノって、果たして生え変わるのだろうか。

抜けたツノをぽいっと投げたら、次は良いツノが生えてくる…みたいな。

そんなおまじないはないのだろうか。竜人には。

…って、冗談はさておき。

「ムリカさん…。ちょっと、相談したいことがあって…」

真ん中の男性が、硬い表情で私に話しかけてきたが。

ちょっと、ちょっと待って。

「…あの…。あなたは…?」

「えっ…?」

彼らは明らかに、私を知っていた。

多分、記憶を失う前の、私の知り合い…なんだろう。

だけど、今の私は…。

「ごめんなさい…。私、実は…記憶をなくしてて…」

「…!ムリカさん…。記憶が…また?」

「…そうなの。だから、私…あなた達のことも覚えてなくて…」

「そうですか…。いや、そういうことなら…。…仕方ないですよ」

私が記憶喪失だと聞いて、残念そうではあったが。

私のせいではないと、彼は私を慰めてくれた。

「記憶をなくしてても良いです。例え覚えてなくても…ムリカさんはムリカさんですから」

「…ありがとう」

そう言ってもらえると、少し…気持ちが楽になるよ。