私の中にあるモノ

…いつまで、そうしていただろう。

気がつくと、既に窓の外は薄暗くなり始めていた。

「あぁ、もう限界」

私は、未だにその本をじっと、睨むように見つめていたが。

隣で別の本を読んでいた此代は、がばっ、と顔を上げた。

「集中力が持たねぇや…。…みなっちゃんは…っと、まだ集中してるみたいだな…」

「…」

私は無言で、その古文書を読んでいた。

そこには、大昔の人間が伝えたという、竜の伝説が書かれていた。

今となっては、本当か嘘か分からない、竜の伝説が。

「…なら、邪魔しない方が良いかな…。…みなっちゃん、自分は先に戻るよ。みなっちゃんも、あんまり根を詰めないようにな」

「…」

「あ、ろくに聞いてねぇな、これ…。…まぁいっか。どうせ、図書室の閉館時間まで、あと一時間くらいだし…」

「…」

「…じゃあ、また明日な。みなっちゃん」

此代はそう言って、私の集中を切らさないよう、そっと立ち上がった。

そして、彼が読んでいた本を本棚に戻し、図書室を出ていった…の、だが。

私は、そんなことにさえ気づいていなかった。

それに…もう一つ。

「…」

図書室で、熱心に本を読んでいる…フリをしながら。

いつからか、私の方をじっと見つめている、数人の竜人達がいたことにも、気づいていなかったのだ。





…そして、一時間後。

「皆宮さん。そろそろ閉館時間ですよ」

「…。…え?」

とんとん、と肩を叩かれて、初めて。

我に返った私は、驚いて顔を上げた。

そこには、図書室の司書…白衣を着た研究員の一人…が、私をじっと見つめていた。

そしていつの間にか、此代の姿が見えないことに気づいた。

「熱心なのは良いことですけど…。…今日はもう、図書室を閉める時間ですから」

「あ…」

「また明日、来てください」

「…えぇと、ごめんなさい…」

私、つい…夢中になって読書を…。

…いや。

本を読んでいたと言うよりは…私は。

本を読みながら…昔のことを、ずっと昔のことを思い出していた。

知っているはずのない記憶を、必死に辿ろうとしていたのだ。

これは…一体、どういうこと?

…に、ついてあれこれ考える前に。

これ以上迷惑をかける前に、急いで図書室から出ないと。

私は、読んでいた本を本棚に戻した。

その時。

「…あれ…」

いつの間にか、此代の姿が消えていることに気づいた。