私の中にあるモノ

黒い線で描かれた、大きな翼。4本の足。

長い尻尾と、分厚い鱗。

額から、私のものより遥かに巨大で、鋭く尖った2本のツノが、神々しく生えていた。

…この、絵。

記憶は、ないはずなのに。

昨日は自分の名前さえ、思い出せなかったはずなのに。

それなのに、私はそのページを見て、思わず手が止まってしまった。

「…みなっちゃん?」

突然固まった私に、此代は驚いて声をかけてきた。

しかし、私は答えられなかった。

答えられないくらい、動揺していた。

…この絵…。

「私…これ、知ってる」

「えっ?」

「見たことがある…。何処かで…」

「…」

此代、ぽかん。

「…記憶が戻ったのか?みなっちゃん、この本のことだけは覚えて…」

「どうなんだろう…?分からない。でも、私…これ、知ってる」

何処かで見たことが…。…いや。

…会ったことが、ある…?

どうしてそう思うの?記憶をなくしてるはずなのに。

「これって、何の絵なの…?」

「竜だよ」

此代は、簡潔にそう答えた。

…竜。これが。

「しかも、それは…。大昔の…祖竜と呼ばれる存在」

「…そりゅう…」

「竜族の王だったとか、一番初めの竜だとか、色々言われてる…」

「…」

私は此代の言葉を、頭の中で必死に咀嚼した。

竜族の王…。一番初めの…原初の竜…。

「…まぁ、それはあくまで言い伝えで描かれただけだから、本当に竜がそんな形をしてたのかは、誰にも分からないが」

「…うん、そうだね」

「でも、多分そんな形してたんじゃないかって…再現された絵だ。…みなっちゃん、この絵のことだけは覚えてたんだな」

「…」

絵を…覚えていた、と言うよりは。

私は、この姿を覚えていた。

この…儚く神々しい、祖竜の姿を…。

「…私、この本読んでみるね」

「あぁ」

他にも、思い出せることがあるかもしれない。

私は、先程までの身体の疲労も忘れ。

一心不乱に、その古文書を読み込んだ。