私の中にあるモノ

部屋に戻っても良い、とは言われたが。

心の中が湧き立っているようで、とてもゆっくり休めそうになかった。

もう終わったから。今日はもう、これ以上痛い思いをしなくて良いから…。

自分にそう言い聞かせているうちに、段々と手足の震えは収まった。

「…」

…本当に、こんなことに一体何の意味があるんだろう?

私は一人、訓練室から出て、ぼんやりと立ち尽くし。

中庭に接する窓から、中庭の噴水を眺めていた。

…すると。

「…みなっちゃん。何やってんの?」

「…え?」

ぼんやりしていたところを、此代に話しかけられた。

あ…。

「此代…」

「…何?なんか考え事?」

「別に…。そういう訳じゃないけど…」

…。

「…此代は?どうしたの。あなたも訓練…?」

「いや…。さっき、終わったところだよ」

そう答える此代の顔には、やはり疲労が滲み出ていた。

そっか…。

…考えてみれば、私よりもずっと、此代達の方が辛いよね。

私みたいに、記憶喪失で、痛みや苦しみの記憶を忘れることが出来ない。

毎日毎日、忘れられない、慣れることも出来ない痛みに耐えるばかり…。

…そういう意味では、私は幸せだ。

忘れることが出来るのだから…。

「どうして…あんなことをするんだろう…」

さっき篠森さんに説明を聞いたはずなのに、私はもう一度、今度は此代に向かって呟いていた。

「それは…。…シンクロ率を上げる為だろ?」

「…」

此代も、篠森さんと同じ答え。

シンクロ率…。私の中の竜の血と、人の血を調和させる為。

竜人として、より完成された存在になる為…。

…それが、この竜人研究の真髄。

それは分かる。理解出来る。

…けれど。

…そこに、一体何の意味があるの…?

記憶を失ってしまったからだろうか。

私は、どうしてもそんな風に考えてしまった。

記憶を失う前の私なら、その答えを導き出していたのだろうか。

自分が、痛みや苦しみに耐える理由を。

「…どうも、難しいことを考え始めてるみたいだな。みなっちゃん」

「えっ…」

…それは。

「あんまり、そういうことは考えない方が良いぞ。考え過ぎると辛いだけだ」

「そ…そんなつもりは」

「まぁ、でも…そうか。記憶を失ってたみなっちゃんにとっては、今日が実質、初めての『訓練』だもんな…。…堪えるのも無理ないけど」

「…」

初めてじゃなくても、慣れることなんて出来ないよ。

此代だって、充分堪えてるじゃない…。

「今日の訓練はもうおしまいだろ?部屋に戻って、少し休んだらどうだ?」

「…篠森さんにもそう言われた。でも、とても休めそうにないよ…」

頭の中が湧き立って、これを鎮めないことには…。

「そうか…。じゃあ、図書室にでも行くか?」

「…図書室?」

…そんな部屋があるの?