私の中にあるモノ

「…あ…」

気がつくと、そこはもう夢の世界ではなかった。

私は、研究所の4階にある住居フロア…そこにある自室の、ベッドの上で目を覚ました。

…ゆっくりとベッドから起き上がって、自分の身体を見下ろす。

…私の名前は皆宮ムリカ。

ここは竜人研究所。

昨日私は、この場所で目を覚まして…それから篠森さんや、山口教授や。

それから、竜人仲間の此代や、近江さんと会って…。

シンクロ率の測定の為に採血をして、その測定の結果を待っている…。

私は昨日、自分が体験したことを思い出した。

…よし、大丈夫だ。覚えている。

さすがに、2日続けて記憶喪失は…。…遠慮したい。

今日はちゃんと覚えている…。…ちゃんとね。

私は、昨日自分が床に投げ散らかしていた、黒いジャケットと黒いスカートを手に取った。

昨日は全然…そんなことに気を回す余裕もなかったけど。

これが、この竜人研究所の制服のようなものらしい。

研究者達は、みなその制服の上に、白衣を着ているそうだ。

私は制服に着替えて、昨日と同じように部屋を出た。

すると、廊下はバタバタと、騒がしかった。

…?

騒ぎのする方に目をやると、白衣を着た研究者達が、何やら忙しそうに話していた。

「…ろりつが、急降下して…」

「…かもしれないな、もう…」

「残念です、彼女は高い…」

…ここからじゃ、よく聞こえない。

何を話してるんだろう…。

でも、さすがに盗み聞きするというのは…。気が咎める。

どうしよう、と考えていると…。

「…何やってんの、みなっちゃん」

「えっ?」

背後から声をかけられて振り向くと、そこに此代がいた。

あ…此代。

「なんかあった?今朝、騒がしいみたいだけど…」

「え…えぇと、いや…何でもない」

「あ、そう…」

…まさか、盗み聞きの算段を考えていたとは言えず。

…何とか誤魔化すしかない。

「それより…此代は、何してるの?」

「何って…。今日も、これから訓練室だけど…」

…訓練室…。

「1階と2階のフロアにある施設だよね…」

「あ、そうか…。みなっちゃん、記憶なくなってたんだっけ…」

「うん…。…そうなの」

「…やっぱり、まだ戻ってないのか?記憶…」

「そうだね…。…駄目みたい」

一晩経って、何か思い出すことがあれば良かったんだけど…。

…残念ながら、その兆候はなく。

「だけど、昨日覚えたことはまだ忘れてないよ…。君が此代だってことも覚えてる」

「そうか…。まぁ、それだけ覚えてたら充分だろ」

…。

出来れば忘れたくはないね。これ以上、何も…。