放課後――。
1年生の玲那の教室は1階。
下校しようと昇降口へ向かっていた玲那の足が、不意に止まる。
(また……いる)
階段の踊り場。
壁にもたれ、制服の襟元をゆるく開けて立つ男。
黒髪に走る赤メッシュが、夕方の光に透けている。
――黒崎 蓮。
3年生で、“夜叉連”のトップ。
そして、兄・晴翔の死に関わっているかもしれない男。
「……また来たの?」
「おう。俺の女が、下校中に変な男に絡まれてねぇか見張りに来ただけ」
「誰があんたの女よ!」
「昨日、あいつら全員の前で“俺の女”って言ったろ?」
「勝手に言ってただけでしょ!」
苛立って吐き捨てる玲那に、蓮はゆるく笑う。
だがその目は、いつになく真剣だった。
「でもさ。玲那、あれ嘘じゃねぇよ」
「……なにが」
「お前が俺のことを憎んでたとしても、俺は――
本気で、お前のことが気になってんだよ」
玲那は言葉を失う。
「……兄のこと、ちゃんと説明しろって言ったよね」
「……ああ」
蓮はフェンスに背中を預け、ゆっくりと話し出す。
「晴翔のことは、憶えてる。
昔、俺が族に入って間もない頃……
ケンカで暴れてた俺を止めたのが、晴翔だった」
「…………」
「アイツ、真正面から来てさ。
『テメェがどんだけ暴れようが、命まで奪う権利はねぇ』って、拳で止めてきた」
玲那は知らなかった。
兄がそんなことをしていたなんて。
「俺は……あの人を、尊敬してた。
俺みたいなクソ野郎にも、真っすぐぶつかってきた、すげぇ人だった」
「じゃあ……なんで、兄は……!」
「……悪ぃ。今は言えねぇ……けど、少しずつ話す。
だから、もうちょいだけ、俺を見てろ」
蓮は、玲那の目をまっすぐ見つめる。
「お前が俺を嫌ってるの、わかってる。
それでも、お前に近づきたいって思ってんだ」
その言葉に、玲那の胸が痛んだ。
(信じちゃダメ……でも、今の目、嘘じゃない)
沈黙のまま、玲那はその場を離れようと踵を返す。
だが、その腕を蓮がそっと掴む。
「……手ぇ、冷てぇな」
「……うるさい」
蓮はそのまま手を放す。
「今は、信じなくていい。
でもいつか、お前の中にある“兄を殺したのは俺だ”って決めつけ、ぶっ壊してやるから」
その声は、確かに――優しかった。
玲那は何も言わず、ただ背を向けて歩き出した。
(まだ許せない。だけど……)
(……もう少しだけ、話を聞いてみてもいいのかもしれない)
そんな思いが胸の中に広がった。
1年生の玲那の教室は1階。
下校しようと昇降口へ向かっていた玲那の足が、不意に止まる。
(また……いる)
階段の踊り場。
壁にもたれ、制服の襟元をゆるく開けて立つ男。
黒髪に走る赤メッシュが、夕方の光に透けている。
――黒崎 蓮。
3年生で、“夜叉連”のトップ。
そして、兄・晴翔の死に関わっているかもしれない男。
「……また来たの?」
「おう。俺の女が、下校中に変な男に絡まれてねぇか見張りに来ただけ」
「誰があんたの女よ!」
「昨日、あいつら全員の前で“俺の女”って言ったろ?」
「勝手に言ってただけでしょ!」
苛立って吐き捨てる玲那に、蓮はゆるく笑う。
だがその目は、いつになく真剣だった。
「でもさ。玲那、あれ嘘じゃねぇよ」
「……なにが」
「お前が俺のことを憎んでたとしても、俺は――
本気で、お前のことが気になってんだよ」
玲那は言葉を失う。
「……兄のこと、ちゃんと説明しろって言ったよね」
「……ああ」
蓮はフェンスに背中を預け、ゆっくりと話し出す。
「晴翔のことは、憶えてる。
昔、俺が族に入って間もない頃……
ケンカで暴れてた俺を止めたのが、晴翔だった」
「…………」
「アイツ、真正面から来てさ。
『テメェがどんだけ暴れようが、命まで奪う権利はねぇ』って、拳で止めてきた」
玲那は知らなかった。
兄がそんなことをしていたなんて。
「俺は……あの人を、尊敬してた。
俺みたいなクソ野郎にも、真っすぐぶつかってきた、すげぇ人だった」
「じゃあ……なんで、兄は……!」
「……悪ぃ。今は言えねぇ……けど、少しずつ話す。
だから、もうちょいだけ、俺を見てろ」
蓮は、玲那の目をまっすぐ見つめる。
「お前が俺を嫌ってるの、わかってる。
それでも、お前に近づきたいって思ってんだ」
その言葉に、玲那の胸が痛んだ。
(信じちゃダメ……でも、今の目、嘘じゃない)
沈黙のまま、玲那はその場を離れようと踵を返す。
だが、その腕を蓮がそっと掴む。
「……手ぇ、冷てぇな」
「……うるさい」
蓮はそのまま手を放す。
「今は、信じなくていい。
でもいつか、お前の中にある“兄を殺したのは俺だ”って決めつけ、ぶっ壊してやるから」
その声は、確かに――優しかった。
玲那は何も言わず、ただ背を向けて歩き出した。
(まだ許せない。だけど……)
(……もう少しだけ、話を聞いてみてもいいのかもしれない)
そんな思いが胸の中に広がった。


