一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん

「見つけたんじゃない?」

私の疑念を払拭(ふっしょく)するように、ハッキリと言葉にする陽華ちゃん。
確かに、顔だちも色合いも背中のハート柄も、凄く良く似ているけれど、一つだけ一致しない点がある。

「えっと……何て言うか――」

相手は猫なのでそんなに気にする事でもないけれど、とても言い辛い。
なんと表現したらいいだろうか。
適切な言葉を探していると、隣の獅童君が不満気に唸り出した。

「世にも恐ろしいくらいに巨大な猫だな。何を食ったらあんな事になるんだ?」

巨大――そう、巨大なのだ。
 
肢体(したい)が短く見えるのも、動作が緩慢(かんまん)貫禄(かんろく)があるのも、素早く逃げる事が出来なかったのも、全てはその体重のせいだろう。
 
別人ならぬ別猫状態だ。
 
健康状態は大丈夫なのだろうか……。
 
獅童君の指摘に対し、今回ばかりは陽華ちゃんも反論が無い。

「それもあるから早く保護してあげたいんだけど、近所のおばちゃん達に大人気でね、気が付いたらぽっちゃり体型に……」
「いや、ぽっちゃりってレベルじゃねーだろ。贅沢の限りを尽くした成功者の顔してるぞ。模様が似てるだけじゃないのか?」
「ううん、間違いないよ。あの子、何故か男の人には懐かないの。あんな姿初めて見たわ。新鮮……」
 
驚きつつも、嬉々とした表情でスマホを構える陽華ちゃん。
被写体となった大神君は、服が汚れる事も気にせずタマゴちゃんと思われる巨大な猫と戯れている。
皆には猫を可愛がっているだけに見えるかもしれないけれど、私にはひたすら謝っているように見えた。

「もしかして……」
「鈴、何か知ってるの?」
「大神君が探してる猫は、男の人に蹴られてからいつもの場所に来なくなったって……」
「もしかして、蹴ったのって学生?」
「う、うん、大神君の喧嘩相手だけど、どうして?」
「あの猫、叔父さんに対しては警戒する程度で逃げたりはしないんだけど、同級生の男友達が遊びに来ると慌てて逃げて行くのよね。そういう事だったのか……」

陽華ちゃんが納得するように一人で頷いていると、獅童君が訝しげに眉根を寄せた。

「その話本当か? 俺も男子高校生だぞ?」
「あー、子供に見えるんじゃない?」

陽華ちゃんはニヤリと笑う。

「俺のどこが子供に見えるんだよ!」
「うーん、精神?」
「はぁ!?」
「冗談よ。あんた今日私服でしょ? 近寄らなければ逃げられる事は無いわ」
「制服で判断してんのか?」
「多分ね、まぁ、私服でも男子には指一本触れさせてはくれないけどね」

陽華ちゃんは不思議そうに大神君を眺めた。

「じゃあ、やっぱり、あの猫は――」
「絶対、間違いないと思うよ」

自信に満ちた陽華ちゃんの声。
欲しかった答えが返って来て歓喜する私の隣で、獅童君が幽霊でも見たような顔で足許を見下ろしている。