「なんかすげぇな、お前の家。時代劇の撮影所か?」
獅童君が天を仰ぎながら感嘆の声を上げた。
「そうかな? 普通の家だと思うけど」
陽華ちゃんは当たり前のように、あっけらかんと答える。
普通って何だろう……。
目の前には広大な敷地と和風なお屋敷。
守るように建てられた巨大な門に、私は言葉を失った。
獅童君も大神君も、観光客のように陽華ちゃんの家を眺めている。
「もー、聖域じゃないんだから、遠慮しないで入ってよ」
獅童君と大神君の背中をバシバシ叩く陽華ちゃん。
規格外のお金持ちに気圧されたのか、二人の男子はオロオロしながら門の奥へと進んでいく。
私も直ぐに後を追ったが、玄関に辿り着く前に全員の足が止まった。
「猫の鳴き声がする」
小さな声で呟く大神君に、みんな息を潜める。
どこからだろう。
近いような遠いような……。
「たぶん裏庭よ」
そう囁くと、陽華ちゃんは玄関では無く裏庭へと進む。
辿り着いた裏庭は、小さな池と東屋がある立派な日本庭園だった。
「やっぱすげぇじゃん、お前の家」
常に喧嘩腰だった獅童君が、感心するほどの大きな庭だ。
「叔父さんの趣味よ。今は冬だから殺風景だけど、春になると凄く綺麗だから遊びに来て、みんなでお花見しよう」
「花見か、いいかもな……」
「あ、あんたじゃなくて、鈴と大神君だけね」
「は!? 何でだよ! 俺も混ぜろよ!」
「そーね、友達いなくて可愛そうだし、お茶くみ係に呼んであげる」
どこか楽しそうな陽華ちゃん。
遊ばれている事を知ってか知らずか、獅童君も負けじと言い返していたが、
「あのなー、言っておくが俺は結構――っんんん」
大神君の大きな手によって、その口は簡単に塞がれてしまった。
「静かにしてくれ」
獅童君の口を塞いだまま、大神君は大きな庭をじっくりと眺め、耳を研ぎ澄ませる。
「大神君、あそこ――」
陽華ちゃんは囁きながら、庭の一画に設置された東屋を指さした。
その先に見えたのは数匹の猫。
温もりを求めているのか、僅かに出来た日向に身を寄せ合っている。
「あの子たちが、保護してる猫なの?」
「ううん、警戒心が強くて完全に保護には至ってないの。でも、用意したハウスは使ってくれてるから、もう少しかな」
「そっか、保護するのも簡単じゃないんだね――って、どうしたの大神君!?」
何が起きたのか、私達の話に耳を傾けていた大神君が、猫達の憩いの場である東屋に向かって歩き出した。
迷いも無く突き進む大神君の姿に、猫たちは一匹を残して彼方此方へ逃げて行く。その残った一匹は、大神君を警戒しつつも、近くの池でのんびり水分補給を始めた。
あの猫、なんとなくタマゴちゃんに似ているような気が――。
でも、何だか……。
