一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん

「あの……一緒に猫を探しませんか?」
「「猫?」」

獅童君と陽華ちゃんは眉間にシワを寄せた。

当然の反応。

私達にとって猫の話題は禁句に近いからだ。
単刀直入過ぎただろうか。
あわてて事情を説明しようとすると、大神君が二人に向かって深々と頭を下げた。

「俺が探してるんだ、手伝ってほしい」
「え、ちょっ、そんなすげぇ猫なのか!? もしかして、有名人とか金持ちの家の猫か!?」

まさか頭を下げられるとは思っていなかったのか、驚嘆(きょうたん)する獅童君。
大神君は瞼を伏せた。

「普通の野良だよ。けど、俺にとっては大事な猫なんだ」
「なんだ野良か――って、野良!? そんなのどうやって探すんだよ。目立つ特徴でも無い限り無理だろ」
 
早々に諦める獅童君。
大神君は肩を落としつつも、真剣な顔つきでスマホの画面を私達に向けた。
 
「これ見てくれ。この猫の背中――」

いつだったか私に見せてくれた猫の写真。
獅童君と陽華ちゃんは、じっくりと画面を見つめながら首を傾げる。

「へー、背中にハートがあるのか。それならまぁ、目印にはなるか……」

意外にも獅童君が前向きな言葉を呟いた一方で、陽華ちゃんは何やら難しい顔で考え込んでしまった。

「どうしたの? 陽華ちゃん」
「――私、もしかしたら知ってるかも」
「え? 知ってるって、この猫の事?」
「たぶん……」

こぼすように返事をする陽華ちゃん。
その言葉に大神君の瞳が煌めいた。

「それ本当か!?」
「うん、確証は無いけど、凄く似てる子を知ってる」

陽華ちゃんの一言で、大神君の表情がみるみる明るくなって行く。けれど、獅童君はとても不満そうだ。

「お前いい加減なこと言うなよな」
「いい加減なんかじゃないわ。叔母さんが保護猫活動していて私も手伝ってるから、この辺の野良には結構詳しいの」
「だからってそんな簡単に見つかるかよ」

獅童君が嘲るように反論すると、陽華ちゃんも負けじとふんぞり返る。

「だったら、今から家に来たらいいじゃない」
「は? なんでお前の家に行かなきゃいけねーんだよ」
「家にその猫がいるからよ!」

陽華ちゃんの自信に満ちた声。
無言の視線が交差する。

「家にいる……?」

返す言葉を見失ってフリーズする獅童君。
もちろん、私も直ぐには理解できず、探るような目で陽華ちゃんを見つめてしまった。

「えっと、どういう事?」
「あのね、うちの庭に野良猫用の小屋を設置してるんだけど、似たような子がたまに遊びに来てるから、もしかしたらって思って」

曖昧だけれど逃してはならない情報。
私の期待値はぐんぐんとあがったが、肝心の大神君はどこか不安げだ。