一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん

「頑なに友達を作らなかった優牙に、女の子の友達が出来たって噂が流れて来てさ、君なら助けてくれるかもって……でも、本人を目の前にしたら苛ついてあんな事に――」
「そうだったんですね。それなのに私、何も聞こうとしないで逃げちゃって、ごめんなさい」
「いや、君が謝る事じゃないよ」
「でも、私のせいで……その……陽華ちゃんに殴られたわけで――」
 
そこまで言いかけると、大人しく事の成り行きを見守っていた陽華ちゃんが、意気揚々と割り込んで来た。

「私は謝らないわよ!」
「お前は謝れ!」
「やーよ!」
 
強気にそっぽを向く陽華ちゃんに、獅童君は大きな溜息を吐くと、

「なぁ優牙、お前も何か言ってくれ」

気恥ずかしそうな表情で、大神君に助けを求める。
けれど、その反応はとても鈍い物だった。

「ごめん、お前にどうやって接していいのか分からなくて戸惑ってる」
「どうって――」
 
獅童君からの歩み寄りは思うように進まず、再び微妙な雰囲気が流れる――かと思いきや、

「あのさ、こういう時って、ドラマみたいに一発ずつ殴って仲直りするもんじゃないの?」
 
陽華ちゃんがジェスチャー付で暴力的な提案をする。

「まて、そしたら俺もお前を殴る事になるが?」
「何言ってんの? 私は別にあんたと仲直りする気ないし、そもそも喧嘩なんかしてないし、全面的にあんたが悪いし」
「はぁ!? 理由も聞かずにいきなり殴って来たのはお前だろ!?」

獅童君は握った拳を震わせて陽華ちゃんを威嚇(いかく)するが、あまり効果は無さそうだ。
 
放っておいたら本当に殴り合いをしそう……。

「二人共落ち着いて、もっと平和的に解決しようよ」
 
衝動的に割り込んだ私に、二人は胡乱な表情を作る。

「平和的にって、例えばどんな事?」

陽華ちゃんの疑問と共に、三人の期待に満ちた瞳が私に向けられた。
一気に緊張が押し寄せる。

「えっと、みんなで共同作業をしてみる……なんてどうかな?」
「共同作業? みんなでお鍋を囲むとか?」
「えっと、お鍋もいいけど、もっと難易度が高い事の方が、みんなと仲良くなれると思うんだ。例えば――」

なんて言ったらいいだろう。
大神君、怒っちゃうかな……。

言葉にできない迷いが全身を強張らせる。

どうしよう、言い出せない。
 
制御できない体の動きに戸惑っていると、大神君が優しく微笑んで私の頭を撫でた。

「仕方ない、愛原がそこまで言うなら、皆でやってみるか?」
「え? わ、私、まだ何も言って……」
「考えてる事は大体分かる」
 
何かが吹っ切れたような清々しい笑顔。

きっと大神君も獅童君と仲良くなりたいんだ……。

私は大きく頷き、陽華ちゃんと獅童君に向き直る。