一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん

このまま帰してはいけない。
でも、続く言葉が浮かばなかった。
二人の事を何も分かっていない私に、何が出来ると言うのか。

どうにかして引き留めようと思考をフル回転させていると、

「なーんか、寂しそうだね、あんた」

急に陽華ちゃんが獅童君を煽り始めた。

「寂しい? 俺が? 冗談だろ」
「そう? 大神君が現れた時は物凄く嬉しそうな顔してたのに、今は絶望って感じ」
「はぁぁぁ? そんな訳ないだろ!?」

獅童君は顔を真っ赤に染め、肩を震わせる。

図星だったらしい。
 
やっぱり……。
獅童君、本当は大神君と仲直りしたいんだ。
二人が本音で話し合えるようにするには、どうしてあげたらいいんだろう。

頭を悩ませる私の横で、陽華ちゃんは子供をあやすように獅童君の背中を(さす)り始めた。

「なるほど、そういう事ね。正直に話したら楽になるわよ」
「はぁ? 何なんだよお前」
「あんたさ、大神君の事が好きなんでしょ?」
 
静寂。

そんな表現がしっくり来る無の時間。
口火(くちび)を切ったのは、顔を真っ赤にして身悶(みもだ)えている獅童君だった。

「おい! 言い方! もっと言葉を選べ! 違う意味に聞こえるだろ!」
「他の言い方? うーん、愛してるとか?」
「ややこしくするな!」
「だったら自分の言葉で伝えたら?」
 
陽華ちゃんの語気が強まる。
その顔に笑顔は無い。
獅童君はバツが悪そうにうつむいた。

「俺は……その……」
 
もう、みんな答えは分かっていた。
大神君だって気付いているはず。

(なぎ)、お前――」
 
こぼれるように獅童君の名前を呼ぶ大神君。
はじけるように顔を上げた獅童君の瞳は、子供のように煌めいていた。

「優牙……」
 
悲しみでは無い、嬉しさを纏った声。
期待を込めたその瞳は、真っ直ぐと大神君に向かっている。
だが、肝心の大神君は頬を染めて視線を背けた。

恥じらう乙女のように――。

「凪、お前……俺の事……好き……なのか?」
「は?」
「だから、俺の事が好きなのか?」

再びの静寂。
獅童君は顔を青くして大神君に駆け寄った。

「――ちょっとまて、マジでそういう事じゃない」
「そうか、やっぱり嫌いなのか……」
「いや、だからっ!」