一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん

「――で、二人はルミさん繋がりってだけ? 本当は内緒で付き合ってるとか、実は両想いとかだったりしないの?」
「陽華ちゃん、何を言ってるの!?」

困惑する私を余所に、大神君は天を仰いで小さく唸った。

「んー、愛原は俺じゃなくて、超イケメンのクラスメイトから愛されて困ってます」
「あ、愛されて――っ!? そ、それって星崎君の事!?」

観覧車での星崎君の告白を思い出して、顔が熱くなって行く。
ジタバタする私に、陽華ちゃんは感心するように大きく頷いた。

「なるほど、イケメンの星崎君ね……うんうん」
「陽華ちゃん、いいよ覚えなくて――って、大神君、なんで知ってるの!?」

余裕を無くした私に向かって、大神君はスマホをヒラヒラ見せつける。

「さっき本人から半泣きで電話が来てた」
「え?」
「完全に振られたと思ってるな、あれは」
「そ、そんなつもりは無かったんだけど……」
「そうか、振るつもりはないのか」
 
大神君が微笑む。
本当に、心の底から嬉しそうな笑顔だ。

「え!? あ、えっと、その……」
「ふふ、鈴かわいい」

完全に地蔵と化した私を、陽華ちゃんが優しく抱きしめる。
その様子を大神君が楽しそうにスマホで撮影し始めた。

大神君、どうしたんだろう。
いつもはこんな事しないのに、無理して私達に絡んでいるような、何かから逃げているような――

「……み、おおがみ! おい、優牙(ゆうが)!」

焦るような獅童君の叫び。
大神君は気だるげに獅童君の方へ体を向けた。

「悪い、忘れてた」
「ワザとだろ」

獅童君が悲しげな声に、大神君の肩が落ちる。

「そうかもな。お前に名前で呼ばれるの久々だから、上手く反応出来なかった」
「そりゃそうだろ、呼んでも無視し続けられたら呼ばなくもなる」
「それはお前に……いや、なんでもない」

早々に話を切り上げようとする大神君。
埋まらない二人の距離感は、少し前の私と陽華ちゃんのようだ。
獅童君は難しい顔つきで暫くの間沈黙していたが、

「――もういい」

諦めたように言うと、ゆっくりと私に向かって歩き出す。
力なく立ち尽くす大神君の横をすり抜け、獅童君は私の目の前で足を止めた。

「怖い思いさせてごめんね」

覇気のない声と共に赤い帽子が手渡される。
改めて自分が帽子を被っていない事を実感した。
 
私が変われたのは大神君のおかげ。
 
今度は私が――。
 
受け取った帽子を被り、心を落ち着かせる。

「あの……私に何を話すつもりだったんですか?」
「もういいよ。気にしないで」
「でも、大事な話だったんですよね?」
「そうだよ、けど、そう思ってたのは俺だけだったみたい」
「そんな事は――」