一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん

「愛原さん、高いところは平気?」
「うん、たぶん大丈夫だと思うけど」
「観覧車、一緒にどうかな?」
「観覧車? うん、いいよ……」
 
――と、簡単に返事をしてしまった事を、私は直ぐに後悔する。

ゴンドラの中で二人きりって、一番気まずいのでは?
あぁ、どうしよう……。

満員で乗れない事を願いながら辿り着いた観覧車。
動物がメインだからなのか、満員どころかガラガラだった。

無になろう……。

乗り込んだ真っ赤なゴンドラは、時々不安を煽るような機械音を奏でながら空へ登って行く。
高いところは苦手では無いが、得意と言う訳でも無く、少しだけ怖くなった私は窓から離れるように椅子に座った。

「大丈夫?」
「うん、思ったよりも高くてびっくりしただけ」

愛想笑いを浮かべる私に、星崎君は寂しげに正面の椅子に腰かける。

隣じゃなくて良かったような、残念なような……。
 
この狭い空間に二人というのは、相手が星崎君じゃなくても緊張しそうだ。

深呼吸を一つ。

景色を眺める余裕なんてない私とは違い、星崎君は空を見つめていた。
 
「愛原さんってさ、好きな人いないの?」

すこし憂いを帯びた表情で話し出す星崎君。
予想外の質問に返す言葉を懸命に探す。

「ど、どうしたのいきなり」
「ごめん、カップル見てたら何となく」

可愛らしい照れ笑いに釣られて私も微笑んで見せた。

「好きな人か――そう言えば考えた事無いかも」
「大神の事はどう思ってるの?」
「大神君!? 大神君は友達――っていうよりお兄ちゃんかな」
「本当に?」
「うん、どうして?」
「好きなのかと思ってた」
「私が大神君を? まさかまさか」
 
微塵(みじん)も思い描いていなかった事を聞かれ、思わず笑ってしまった。
そんな私を見て、星崎君は困ったように眉を寄せる。

「じゃあ、俺は?」
「え?」
「俺の事はどう思ってる?」
「どうって……星崎君とは最近話すようになったから、急に聞かれても……」
「そうだよね。ごめん」

残念そうに消えて行く声。
取り繕うにも正解が分からない。

なんだろう、この展開。
なんかドキドキして来た。
気まずい。
何か、何か話さなきゃ!

「ほ、星崎君は? 好きな人いないの?」

――って、何言ってんだ私!?
さらに気まずくなっちゃうじゃん!

慌てふためく私を余所に、星崎君は落ち着いた表情で私を見つめる。

「――いるよ」