一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん

「ご、ごめん、このスマホには入ってなかった」

慌ててスマホをポケットに終い込み、星崎君はライオンと睨めっこする。

「別のスマホがあるの?」
「い、いや、猫専用のタブレットがあって、それで撮ってるからスマホには入ってなかった。ごめんね」
「そうなんだ」
「こ、今度見せてあげるよ」

朗らかに答える星崎君だったが、視線が私に向けられる事は無かった。

「うん、楽しみにしてるね」

私の声が虚しく落ちる。
続かない会話。
微妙な距離。

気まずい……。

天城さん達は少し離れた所で動画撮影に夢中だ。
そろそろ行こうと声をかければいいだけなのに、どうして私にはそれが出来ないのか。

「はぁ……」

ダメな自分にため息が――って、あれ? 

溜息をもらしていたのは、私では無く星崎君だった。
胸元を押さえているようにも見える。

「どうしたの? 大丈夫?」
「いや、ちょっと心臓がね」
「えっ!? どこか悪いの?」
「い、いや、そうじゃなくて、あのさ……」

星崎君は言葉を濁しながら私を見つめる。
その顔は真っ赤に染まっていた。
やっぱりどこか悪いのだろうか。
何かを伝えようとしている姿を懸命に観察していると、

「がおーっ!」
 
突然、私達の間に人影が割り込んできた。

「あ、天城さん!?」

星崎君が慌てて飛び退くと、天城さんはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

「どうしたの? 顔赤いけど」
「い、いや、びっくりして」
「ふーん」

天城さんの探るような眼差しに、星崎君の顔はどんどん赤くなって行く。
なんだか見ていられなくて二人の間に割り込んだ。

「ごめんね天城さん、私達ちょっとのんびりし過ぎちゃったかな?」
「あー、いいのいいの気にしないで、それより相談したい事があるんだけど……」
「相談?」
「山本君達がジェットコースターに乗りに行っちゃったんだけど、二人はどうする? 私は山本君達に合流するつもりなんだけど……」

天城さんは遠くに見えるジェットコースターを指さす。子供向けなのか、一般的な絶叫マシーンよりも緩やかなレーンだ。

あれなら乗れない事も無いかな――でも、私は……。
 
どう断ろうかと悩んでいると、星崎君が渋い顔つきで唸り出す。

「あー、実は絶叫系苦手なんだよね。俺は愛原さんと二人で園内をまわるから、別行動でいいんじゃないかな」
「ふぇっ!?」

二人という言葉に反応して変な声が出てしまった。
恥ずかしくて顔を伏せていると、星崎君が焦り出す。