一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん

「ちょっと待って」
「ん? 気が変わった?」

期待に満ち溢れた笑顔で振り返る天城。
申し訳なさで言葉が詰まる。

「……あ、いや、もしかして天城も星崎狙いなのかなーと思って」

一瞬の沈黙、
天城は瞳を瞬かせ、最大の笑みを作った。

「あはは、まさかまさか、どちらかと言えば愛原さん狙いよ」
「は?」
「あのメイド姿に萌えない奴は人間じゃないと思うわ」

宙を眺めながら破顔(はがん)させる天城。
いつものクールな表情は失われていた。

「まぁ、確かに可愛かったな……」

もちろん、マスコット的な意味でだが、天城は違うようだ。
恍惚とした笑みの中に下心が浮かんでいる。

「でしょでしょ! それなのに愛原さん、全然自信なさそうで二人の仲が進展しないのよね」
「二人の仲? 進展?」
「うん、どこからどう見たって両想いでしょ、あの二人。だから誘ってみたんだけど……」

声を弾ませる天城。
その目線の先には、楽しげに話をしている星崎と愛原の姿。
星崎は嬉しそうだが愛原はどうだろうか。
仲は良さげだが、愛原からは愛とか恋とか言える程の熱量を感じない。

「あの二人が両想い?」
「えぇ!? 大神君、二人と仲良いのに気付いてなかったの」
「いや、俺はてっきり星崎の片思いかと……」

これまでの記憶を辿っても、愛原から恋愛を連想させるものは何も浮かばなかった。

「あー、そっか、大神君サボってたもんね、学園祭」

突然始まる笑顔のお説教。
勢いで「ごめんなさい」と呟くと、天城はクスッと笑う。

「あのね、学園祭の間、すっごく良い感じだったのよ、あの二人」
「へー、どんなふうに?」

なんてことない俺の疑問に、天城は体をくねらせて悶えはじめた。

「そりゃもう、きゅんきゅんでれでれよ」
「きゅんきゅん……でれでれ……」

まったく想像つかないが、天城の表情が今にも溶け出しそうなので相当な光景だったのだろう。とりあえず、天城の目的は星崎ではなさそうで安心した。

いや、安心して良かったのか?
 
キャラが崩壊しきったクネクネの天城を前に怯えていると、星崎と愛原が胡乱な表情で現れた。