一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん


星崎君の言った通り、大神君は屋上に居た。
いつかの私のようにフェンス越しに街を見下ろしている。

「大神くん……」

そっと声をかけると、広い背中が僅かに萎縮する。

「巻き込んでごめん」
「あの、さっきの話って……」
「本当だよ」
 
全てを拒絶するような声。
私と大神君の距離が更に遠くなる。

「嘘、大神くんそんな事出来る人じゃないよ」
「嘘か……やっぱり、愛原は俺の事を信用してくれないんだな」
「――っ!?」
 
それを言われてしまうと返す言葉が無い。
どう会話を切り出すべきか考えていると、大神君が踵を返して私を見つめた。
呼ばれたような気がして近くまで行くと、大神君は訥々(とつとつ)と話し始める。

「愛原は、ペットの引き取り屋って知ってる?」
「え? ……ううん。ごめん」
「ペットショップで売れなかった子とか、ブリーダーの所で繁殖の役目を終えた子を有料で引き取る業者だよ」
「……そんな仕事があるだね」

一体なんの話だろうか。
曖昧な返事を返すしかない私に、大神君は語り続ける。

「仕事――って言っていいのか分からないけど、俺の父親も副業でしていたらしい」
「らしい――って、知らなかったの?」
「あぁ、父親は動物が嫌いだったし、引き取ったペットを飼育する環境なんて俺の家には無かった」
「じゃあどこで……」

そこまで口にして、さっきの不良男子の言葉を思い出す。
全身に鳥肌が立った。

まさか――、

「空き家だった父親の実家で飼育してたんだ。鳴き声の事を考えて猫ばかり沢山。どうやって管理してたと思う?」

残酷な質問。

「ごめん、わかんない……」

思い浮かんだ言葉を口にすることが出来ず、首を傾げる。

覚悟を決めたような、力強い深呼吸が聞こえた。

「ご飯も排泄もケージの中、掃除はまともに行き届かず、一歩も外に出られないまま病気になって死んでいく。ただそれだけの最悪な飼育環境。しかも、死骸は近くの山に遺棄してた」
「そんな……」
「それを知ったのが小五の時、程なくして父親は捕まった。その後の事は言わなくても大体想像出来るだろ?」

言い終えると、大神君は懐古するように空を見上げる。

どこにでもいる小学生から、犯罪者の家族に変わった日。
大神君の日常は普通ではなくなっただろう。
きっと沢山の物を失ってきたはずだ。
家族、家、友達。

友達?