一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん

「はい、すとーっぷ」

最強と(うた)われる体育教師が、大きな身体を揺らしながら教室に入って来た。
背後には息を整えている星崎君の姿。
先生を呼びに行ってくれたらしい。

「わー、なんか怖い人来たー」

胸ぐらを掴まれながらも、へらへらと笑う不良男子。
なんなら少し嬉しそうなくらいだ。

変な人だな……。

先生も呆れた様子で二人を引き剥がす。
 
「君はどこの誰だ? 喧嘩しに来たのか?」
「隣街から来た大神くんの友達でーす。俺は喧嘩する気なんてないのでご心配なく」

不良男子は無抵抗をアピールするように両手をあげてヒラヒラさせた。
先生は辟易した様子で溜息を吐き、大神君を見下ろす。

「――と、言ってるが?」
「そいつは友達なんかじゃないですよ」

大神君は吐き捨てるように言うと、先生の横をすり抜けて教室を後にした。

「相変わらず何考えてるか分からん奴だな――で、何があった?」
「俺が煽ったのが原因です。すみませんでした。もう帰りますので許して下さい」

意外にも不良男子は軽く頭を下げ、何事も無かったように教室を出て行く。
私は大事なことを思い出し、衝動的に教室を飛び出した。

「待って下さい!」

呼び止めると、不良男子は気だるげに振り返る。

「なーに、メイドさん」
「私に用って何だったんですか?」
「ん? ――あぁ、そうだった。知りたかったらここに連絡して」

不良男子は柔和(にゅうわ)な笑みを浮かべ、私に紙切れを握らせた。

「あの……」
「アイツの事よろしくね」
「え?」
 
思いがけない言葉に呆然としている間に、不良男子――いや、不良だと思っていた男子は、通りすがる女子達に手を振りながら去って行った。
 
何だったのだろう……。
 
仲良くするなと言ったり、よろしく頼んで来たり。
オマケにちょっと寂しそうだった。
二人はどんな関係だったのか。
彼に連絡すれば、大神君の事が分かるのだろうか。

渡された紙切れを見つめて考え込んでいると、星崎君が不安げな様子でやって来る。

「愛原さん、大丈夫?」
「うん」
「あのさ、心配だから大神の所に行って来てくれないかな? こっちは何とかしておくから」 
「私もそうしたいんだけど、どこにいるか分からないし、電話には出ないんじゃないかな……」
「たぶん屋上だよ。――いや、絶対屋上」

星崎君は自信ありげに宣言する。

「分かった。行ってみる」

私は着替える間も惜しみ、メイド姿のまま屋上へ向かった。

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