「振り回される家族かわいそうだな」
「――っ!?」
「引越しを決断したおじさんとおばさんの気持ち、帽子を縫っている時のルミさんの気持ち、愛原はちゃんと考えた事があるのか?」
あまり感情を出さないように、平静を装いながら淡々と問いかけた。
声を荒げたくない。
口論はしたくない。
ただ静かに、冷静に――。
「そんなの分かってる! 大神君よりも、ずっとずっと前から分かってるし、悪いと思ってる!」
愛原は叫びながら踵を返した。
怒っているのか泣いているのか、判断できないほどの声の震え。
あまりの剣幕に俺の感情も沸点に達した。
「じゃあどうして話を聞こうとしないんだ。猫耳なんて無いって、何度も言われただろ!」
「それは皆が優しいから、私を傷つけないように嘘を吐いてるだけ!」
嘘。
その言葉をぶつけられた瞬間、全身から力が抜けて行く。
声を押し出す気力さえも消えてしまった。
「そんな物は優しさじゃない。本当に猫耳なんてもんが生えて来たら、愛原が泣こうが喚こうが、なりふり構わずなんとかしようとするんじゃないのか?」
僅かな沈黙の時間訪れる。
「……分からない」
否定も肯定も無い空っぽな表情。
愛原はバツが悪そうに俺から顔を背けると、頭を抱えるようにしゃがみ込んでしまった。
ルミさんに事情は聞いていたが、ここまでとは……。
あの日の夜。
ルミさんが語り出した真実を、俺は受け入れる事が出来なかった。
猫耳が生えてきたなんて、いくらなんでも非現実的過ぎる。
だから、軽く考えていたのかもしれない。
ほんのわずかな傷跡を、過剰に気にしているだけなのだと……。
でも、違った。
そんな簡単な事じゃなかった。
――俺じゃ、無理だ。
必死に目元を拭う愛原を見下ろしながら、自分の無力さに打ちひしがれる。
俺なら分かってやれると思った。
救えると思った。
それなのに、分かってやるどころか救う事も出来ず、泣いている愛原を見下ろしているだけ。
どうして俺は、愛原を救えると思った?
家族の誰も溶かすことが出来なかった愛原の心。
家族ですらない俺の言葉なんか届く訳がないのに……。
波のように押し寄せる後悔。
俺は、なんて事を――。
「ごめん、少し急ぎ過ぎた。つらい思いをさせて悪かった」
「……ううん」
愛原はしゃがみ込んだまま、首を横に振る。
「クラスの連中には俺から説明しておくから、落ち着いたら戻って来てくれ」
そう言うと、耐え切れずにその場を去った。
背後に迫る衣擦れの音と嗚咽。
「待って、私、大神君を信用してない訳じゃ――」
「ごめん」
呼び止められた声に名残惜しさと罪悪感を覚えたが、振り切って屋上を後にした。
「――っ!?」
「引越しを決断したおじさんとおばさんの気持ち、帽子を縫っている時のルミさんの気持ち、愛原はちゃんと考えた事があるのか?」
あまり感情を出さないように、平静を装いながら淡々と問いかけた。
声を荒げたくない。
口論はしたくない。
ただ静かに、冷静に――。
「そんなの分かってる! 大神君よりも、ずっとずっと前から分かってるし、悪いと思ってる!」
愛原は叫びながら踵を返した。
怒っているのか泣いているのか、判断できないほどの声の震え。
あまりの剣幕に俺の感情も沸点に達した。
「じゃあどうして話を聞こうとしないんだ。猫耳なんて無いって、何度も言われただろ!」
「それは皆が優しいから、私を傷つけないように嘘を吐いてるだけ!」
嘘。
その言葉をぶつけられた瞬間、全身から力が抜けて行く。
声を押し出す気力さえも消えてしまった。
「そんな物は優しさじゃない。本当に猫耳なんてもんが生えて来たら、愛原が泣こうが喚こうが、なりふり構わずなんとかしようとするんじゃないのか?」
僅かな沈黙の時間訪れる。
「……分からない」
否定も肯定も無い空っぽな表情。
愛原はバツが悪そうに俺から顔を背けると、頭を抱えるようにしゃがみ込んでしまった。
ルミさんに事情は聞いていたが、ここまでとは……。
あの日の夜。
ルミさんが語り出した真実を、俺は受け入れる事が出来なかった。
猫耳が生えてきたなんて、いくらなんでも非現実的過ぎる。
だから、軽く考えていたのかもしれない。
ほんのわずかな傷跡を、過剰に気にしているだけなのだと……。
でも、違った。
そんな簡単な事じゃなかった。
――俺じゃ、無理だ。
必死に目元を拭う愛原を見下ろしながら、自分の無力さに打ちひしがれる。
俺なら分かってやれると思った。
救えると思った。
それなのに、分かってやるどころか救う事も出来ず、泣いている愛原を見下ろしているだけ。
どうして俺は、愛原を救えると思った?
家族の誰も溶かすことが出来なかった愛原の心。
家族ですらない俺の言葉なんか届く訳がないのに……。
波のように押し寄せる後悔。
俺は、なんて事を――。
「ごめん、少し急ぎ過ぎた。つらい思いをさせて悪かった」
「……ううん」
愛原はしゃがみ込んだまま、首を横に振る。
「クラスの連中には俺から説明しておくから、落ち着いたら戻って来てくれ」
そう言うと、耐え切れずにその場を去った。
背後に迫る衣擦れの音と嗚咽。
「待って、私、大神君を信用してない訳じゃ――」
「ごめん」
呼び止められた声に名残惜しさと罪悪感を覚えたが、振り切って屋上を後にした。
