一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん

「おい、大丈夫か大神」
「星崎、目を閉じて想像して欲しいんだ」
「何を?」
「愛原の猫耳メイド姿……」
「――なっ!?」
 
大神君の発言に狼狽する星崎君。
私がどうと言うより、似つかわしくない大神君の言動に驚いているのだろう。
もちろん私も驚いたけれど、ある事が頭を過り、それどころでは無くなってしまった。
 
もしかして、私が猫耳姿を晒せる状況を作ろうとしてる……?
 
確認するように見つめる私に、大神君は得意気に微笑んだ。
予感が当たってしまったようだ。
動揺と羞恥で体を委縮させていると、一部の女子達から険のある眼差し向けられる。
いつだったか、星崎君との関係を聞いて来た綾瀬さん達だ。
私が注目されている事が気に入らないのかもしれない。

居心地の悪さに息を潜めていると、

「想像してほしいのは愛原だけじゃない」

大神君が再び口を開いた。
流石の星崎君も呆れた様子だ。

「今度は何だー、大神」
「星崎」
「ん?」

「俺は今、星崎の猫耳執事姿を想像している」
 
一瞬の沈黙の後、教室は一気に盛り上がる。

「お、おい、なんで俺なんだよ!」
「ん? メイドの方が良かったか?」
「そういう事じゃ――」
「でも、みんな喜んでる」

大神君が向けた目線の先には、さっきまで不満気な顔をしていた綾瀬さん達が居た。
みんな煌びやかな瞳で星崎君を見つめている。
星崎君は恥ずかしそうにしながらも、クラスメイト達からの弄りに笑顔で対応していた。
 
もしかして大神君、わざと綾瀬さん達の注意を逸らしてくれたのかな?

だとしたら星崎君に申し訳ない。
 
でも、猫耳はともかく、星崎君の執事姿は見てみたいかも……。

うっかり妄想してしまい、顔が熱くなる感覚がして慌てて両手で隠した。

こんな事、考えてる場合じゃないのに……。

火照った顔をパタパタと手で扇いでいると、天城さんに見つかってしまう。

「愛原さん、大丈夫? 体調悪い?」
「――あ、えっと、ちょっと、お手洗いに……」
「一人で大丈夫?」
「だ、大丈夫です。直ぐに戻ります!」
 
小走りで廊下に出ると、解放感からか大きな溜息が出た。
 
クラスの雰囲気からして、猫耳メイドカフェに決まるのは間違いない。
私に出来るだろうか。
いや、やらなければいけないのだ。
大神君が作ってくれたチャンスだから、無駄にしたくない。

覚悟を決めるしか無い。



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