一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん

「天罰だよ」
 
そうだ、天罰だ。
大切な命を奪った報い。
 
そんな分かり切ってる事を言わないで!
 
電源を落としてスマホを放り投げると、ベッドに潜り込んだ。
こんな思いをするなら、あの時に終わっていれば良かった。
 
猫じゃなくて、私が――。

「鈴、起きてるか?」

過去の自分に心が持って行かれそうになっていると、ドアの向こうから優しい声が届いた。

お父さんだ。
心配させたくない。

返事をしなきゃ……。

でも、空気を含んだ細い声しか出なかった。
このままだと、居なくなってしまう。

行かないで!

力を振り絞ってベッドを降りた。
返事は返せなかったが、物音を立てたおかげか、僅かにドアが開いてお父さんが姿を見せる。
安堵したのも束の間、お父さんの手に握られたスマホに体が粟立(あわた)った。
 
私が電話に出ないから、お父さんに!?
 
「全部私が悪いんだって分かってるから! もうやめて!」
 
叫びながら近くにあったクッションを投げつける。

「鈴……」

お父さんは悲しげに呟き、部屋を出て行ってしまった。
 
なんて親不孝な娘なのだろう……。

廊下から聞こえるお父さんとお母さんの話し声。
そろそろ愛想を尽かされたかもしれない。
 
どうしてこんな事に……。
 
床にうずくまっていると、再びノックの音がする。
眺めたドアから姿を見せたのは、相変わらず穏やかな笑顔を浮かべたお父さんだった。
もう、スマホは持っていない。

「入っていいか?」
「……」

無言で頷くと、お父さんは私の隣に腰を下ろした。

「大神君、鈴が電話に出てくれなくて悲しそうだったよ」
「え?」
 
二度目の着信は大神君!?
 
どうして私、出なかったんだろう。

自分の間の悪さに呆れて言葉も出ない。
もしも先に電話を掛けて来たのが大神君だったら――なんて、過ぎ去った時間に幻想を描いてみるが、なんの意味も無い事に気が付き虚しくなった。

お父さんは慰めるように私の頭を撫でる。

「帽子の事は誰にも話して無から、学校に来てほしいってさ」
「……本当……かな?」
「彼は嘘を吐くような子じゃないよ」
「でも……」
 
じゃあ、最初の電話は何? 
間違い? 
タイミング良すぎない? 
 
やっぱり帽子の事――。
 
「鈴はお父さんを信じてるか?」

疑心暗鬼に陥っている心に、真っ直ぐで落ち着いた声音が振って来た。
見上げると、お父さんの熱い眼差しと出会う。

「う、うん……」

首を縦に振ると、お父さんは心底嬉しそうに笑った。

「だったら、大神君を信じてるお父さんを信じて欲しい。ルミさんだって、大神君を信じてるから下宿させてるんだよ」
 
みっちゃん……。