一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん

「あの……星崎って大人しかったんですか?」

あ、確かに。
大神君、そこが気になって難しい顔してたのか……。

大神君の疑いの眼差しに、みっちゃんは懐古(かいこ)に耽るように瞼を閉じる。
 
「そうねぇ、シャイを絵に描いたような感じだったわよ。今は違うの?」
「社交性の塊ですよ。毎日のように絡まれてます」
「あら意外。でも、私が知らないだけで、それが本当の星崎君なのかもしれないわね」

みっちゃんの真面目な分析に、大神君はクスッと笑い遠くを見た。
 
「アイツぐらいですよ。俺の噂話の真相を軽いノリで聞いて来るのは――」

噂話の真相!?
それって、あの噂の事だよね。
星崎君の勇気凄すぎる。

あぁ、でも、みっちゃんも平気で聞きそうだよな……と、不安に思っていた矢先、

「あぁ、学校で噂になってるって言う、あの喧嘩の話?」

想像通り、みっちゃんは平然と問いかけた。

あれ?
ちょっと待って!

「みっちゃん、知ってるの!?」
「えぇ、大神君のお母さんから色々とね」

みっちゃんの言葉に大神君が肩を落とす。

「俺の悪事はルミさんに筒抜けだから」
「悪事だなんて、あれは武勇伝よ、武勇伝!」
「流石にそれは……」

苦笑する大神君と、瞳を輝かせるみっちゃん。
言葉を交わせば交わすほど、二人の温度差が開いて行く。
いったいどちらが本当なのか。
私が聞いた噂話は完全に大神君が悪者になっていたけど、みっちゃんの様子を見ているとそうでも無いようだ。

「ねぇ、鈴はどう思う?」
「えぇ!? 急に言われても……」

真偽の分からない噂話だけで判断するのは良くない。
だからと言って、今更詳しい事情を聞くのも気が引ける。
どうしたものかと煮えたぎる鍋を眺めていると、大神君が優しく微笑んだ。

「ルミさん、愛原は盛に盛られた噂話しか知らないので、答えにくいと思いますよ」
「あらそうなの?」
「う、うん……」
 
控え目に頷くと、みっちゃんは思い切り口角を上げて私に体を寄せる。

「大神君はね、友達を守る為に悪い奴らをやっつけたのよ! ね、武勇伝でしょ?」
「友達?」

噂話では一切出てこなかった友達の存在。
私は何か誤解をしているかもしれない。
真相を確かめたくなり、期待の眼差しを鍋の向こうに送ってみた。
大神君は覚悟を決めたように居住まいを正す。