一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん

「おい、俺が女子を振りまくってるってどういう事だよ!」
「クラスの女子が話してた」

淡々と答えると、星崎は頭を抱えて嘆息(たんそく)する。

「たった一人振っただけでそんな話になってるのか……」
「一人? そりゃまた随分と尾ひれを付けられたな」
「まぁ、遊びの誘いを断ってるせいもあるだろうけど、それにしたって付け過ぎ……」
「モテるのに彼女を作らないからだろー」
「そんな事言ったって、好きでも無い子と付き合えるかよ」

誠実な答え。
嘘の無い声音。
力強い眼差し。

「そうか、それなら安心だな」
「安心? 何が?」
「えーっと……それは……」
 
もちろん、愛原の事だ。
星崎なら、友達でも恋人でもおじさんは納得するだろう。
だが、そんな事をペラペラと話す訳にも行かず、俺は言葉を見失ってしまった。
出来る事なら自然な形で仲良くなって欲しい。

「もしかして、まだ寝ぼけてるのか?」
「そうかも……」
「変なヤツ」

星崎は屈託なく笑った。
途轍もない安心感をくれる笑顔。
釣られて一緒に笑っていると、不意に疑問が沸く。

「なぁ、女子が苦手だって話、どうして山本には言わなかったんだ?」
「アイツに話すのは全校生徒に話すのと一緒だから」

苦笑しながらも、朗らかに話す星崎。
面白おかしく触れ回る山本の姿が脳内に浮かび、俺も苦笑した。

「確かに。けど、俺の事もあんまり信用しない方が良い」
「どうして?」

一点の曇りも無い表情。
星崎は俺の噂話を聞いた事が無いのだろうか。
いや、そんなはずはない。
星崎はサッカー部のエースだ。
他のクラスや先輩達とも仲が良い。
俺の噂話を知らない訳がないのだ。

「俺の噂話、聞いた事あるだろ?」

 居住まいを正して真剣に話す俺に、星崎は首を傾げる。

「噂……? あー、喧嘩して相手を病院送りにした話か?」
「お前、本人目の前にしてよく言えるな」
「言ったらマズイのか? っていうか、アレってマジな話?」
「あ、あぁ……」

引かれるのが怖くて遠慮気味に答えると、星崎が前のめりになった。

「へー、すげえな」
「すごい……のか?」
「やっぱ喧嘩の原因って男と男の友情系? それとも、俺の女に手を出すな的な?」
 
煌めく星崎の瞳。
今までにない食いつきだ。
しかも、今時ドラマでも漫画でも見ない展開。

「どういう発想だよ」
「違うのか?」
「いや、違わなくもないけど……」
 
確かに、友達が原因の喧嘩だったが、その友達ってのがな……。

「なぁなぁ、その話もっと聞かせろよ」
「お、俺、そろそろ帰らないと」
「なら途中まで一緒に帰ろーぜ」
「部活あるだろ?」
「今日は休養日だ!」

ふんぞり返る星崎。
俺に逃げ場はないのか?
出来れば話したくないが、話題を振ったのは俺のほうな訳で、覚悟を決めるしか無いようだ。

「そ、そうか……」
「あ! 今嫌な顔しただろ」
「嫌に決まってるだろ、黒歴史だぞ」
「何言ってんだ、武勇伝だろ!」

は?