一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん

「何かあったの?」
「大神君、お昼は毎日タマゴサンドが良いって言うのよ」
「ま、毎日?」
「そうなのよ。育ちざかりの男の子が、毎日お昼にタマゴサンドだけってどう思う? 仕方ないからボリューム満点の分厚いタマゴサンドにしてるんだけど……」
「うーん、好きならいいんじゃない?」
「それがそうでもないらしいのよ」
「どういう事?」
「タマゴサンドが好きなのか聞いたら、首を傾げられたわ」

みっちゃんは苦笑しながら、私が取り出した犬柄のカップを食器棚に終ってしまった。

「そ、それは謎だね……って、ちょっと待って、どうしてカップ終うの?」
「あー、このカップね、大神君用にしようと思って」
「え……?」
「あの子、大型犬っぽいでしょ?」

違う。
そんな事を聞きたいんじゃない。
そのカップはみっちゃんが私と一緒に使う為に買って来たものだったはず。
私は猫柄で、みっちゃんが犬柄。
それなのに――。

「……確かに犬っぽいね。あはは」
 
何も言えなかった。
ここはみっちゃんの家。
勝手に私が居場所だと思っているだけだから……。
 
みっちゃんは犬柄カップの代わりに、花柄のオシャレなカップを取り出すと、手早く二人分のお茶を準備する。
暖かな湯気が鬱々とした気分を和らげてくれた。

「まぁ、とりあえず、大神君に鈴の分のお弁当も持たせるから、ちゃんと食べてね」
「……うん」

生返事をしながらお茶を一口すする。

明日からみっちゃんのお弁当か……ちょっと楽しみ――って、待って待って! 
なんとなく返事しちゃったけど、大神君からお弁当受け取る姿なんて見られたら、絶対変な噂流されるよ。

やっぱり断ろうとしたが、

「んふふ、鈴のお弁当、何にしようかなー」

楽しげなみっちゃんの姿に言葉が詰まった。
一度返事しちゃったし、みっちゃんやる気満々だし、断れない。

明日、学校で色々聞かれたらなんて答えよう。
普通に説明して信じてもらえるかな?
いや、変な気を遣われて、何も聞かれないかもしれない。

あー、でも、よく考えたら誰も私に興味なんてないか……。

無駄に思考を巡らせたせいか、一気に疲労感が押し寄せた。
今日はまだ一日目。
私のメンタルは一週間持つだろうか。
 
温かいお茶がいつもより体に染みわたった。



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