サラッと言われた言葉に、一拍置いてから驚き私は顔を上げた。
 不機嫌そうにラディスは続ける。

「他の者は疑ってもいないようだがな」
「な、な、」
「あれは偽者だ」
「……な、なんで」
「昨日、お前とその話をしようと思っていたのに、あの女の意味のない長話のせいで」
「なんで偽者だって、わかんだよ……」

 思わず声が大きくなっていたことに気付いて尻すぼみになりながら訊くと、ラディスはさも当然のように言った。

「何度も言っているが、お前が聖女だからだ」
「っ、」

 不覚にもどきりと胸が鳴った。

「でも、私は……」

 視線を落として、ぎゅっと拳を握る。

 あの聖女様があまりにも理想の聖女様で。
 誰がどう見たって、彼女の方が聖女の名に相応しくて。
 それに比べて私は、ただ異世界からやって来て、ちょっと特別な力が使えるだけのガサツな女で。

「私の方が、偽者かもしれないだろ……」
「橘藤花」

 もう一度本当の名を呼ばれて、ゆっくりと顔を上げるとやけに優しい瞳があった。