「団長、どうされたのですか」

 慌てたように、先輩騎士のひとりがラディスに駆け寄り声をかけた。

「いや、彼女が馬を見たいというのでな」

 そう答えたラディスは心なしか疲れているように見えた。
 と、聖女様は私たちに注目されていることに気付いたのだろう、こちらに視線を向けるとにこりと笑った。

「皆さん、お疲れ様です。少しお邪魔いたしますね」

 声も可愛らしかった。
 鈴を転がすような声、というやつだ。
 しかし言われた男たちは皆一斉に緊張したようにぴんと背筋を伸ばした。
 聖女様はそんな奴らにもう一度微笑んでから馬たちに視線を移し「まあ、可愛らしい」とはしゃいだ声を上げた。
 
 と、そのときだ。

「!」

 ラディスとばっちり目が合った。
 ――合図だ。
 そうとわかったのに、私はパっと目を逸らしてしまった。
 昨夜のこと、そして自分の恥ずかしい勘違いを思い出したのだ。
 でも流石にあからさま過ぎたかと視線を戻そうとして。

「きゃあ!」

 そんな甲高い叫び声が上がった。聖女様だ。
 途端、その声に驚いた馬たちが厩舎の中で高くいななき落ち着きなく脚をバタつかせた。
 先輩騎士たちがすぐにその馬たちに駆け寄りどうどうと宥め始めた。