戦……戦争、なんて嫌な響きだろう。
 思わずごくりと喉が鳴っていた。

「それに……お前、気付いたらあの森にいたと言っていたな」

 私が頷くと、こちらを見る緑の目が鋭くなった。

「あの森は国境にある。お前が現れたのがもしバラノス側だった場合、お前はバラノスの聖女ということになる」
「え……?」
「その場合、俺は我が国のためにお前を始末しなくてはならない」
「!?」

 ぎょっと目を剥き身体を固くした私に、しかし彼はふっと息を吐いて視線を落とした。

「だが正確な場所がわからない以上、何もする気はないから安心しろ」

 ほっと肩の力を抜いて、しかしそんなことを聞いてしまった以上安心なんて出来るわけがなかった。
 野盗から助けてはもらったが、彼も完全には信用できないということだ。

 と、彼は立ち上がり私を見下ろした。

「どちらにせよ、俺は聖女の力などに頼るつもりはない」

 その言葉にもムカっときて、更に彼は偉そうに続けた。

「城には連れていけないが、都の知り合いに口利きくらいはしてやろう」

「結構です」今なら確実にそう答えていただろう。
 しかし、当時の私はこの男に頼るしかなかった。



 ――あれから早2年。

 色々あって現在私は騎士見習いトーラとして日々剣の鍛錬に励んでいる。

「そこの見習い、動きが全然なっていないぞ! やる気がないのなら帰れ!」
「……っ、すみません!」

 あのムカつく男――冷徹と謳われるレヴァンタ王国騎士団団長ラディスの元で。