私は絶句した。
突然異世界に飛ばされる、そういう物語があることは知っていたけれど、あくまで物語、フィクションだと思っていた。
まさか自分がその当事者になるなんて思いもしなかった。
大掛かりなドッキリ企画であって欲しいと願いながらも、私は小さく言った。
「でも私、絶大な力なんて持ってません」
「そのようだな」
当時、剣道ではそこそこ強い方だと思っていた私はそこで少しムっとした。
しかし野盗に襲われていたところを助けてもらったのだ。そう思われても仕方ない。
「どうやって帰ればいいんですか?」
「知らん」
「……これからどうすれば」
「突然来たというなら突然帰れるかもしれない。それまでこの世界で生きるしかないだろうな」
「そんな……!」
その突き放したような冷たい言い方に私は焦りを覚えた。
こんなわけのわからない場所でどうやって生きていけばいいのか。
必死な思いで私は続けた。
「もしかしたら私、その聖女かもしれないんですよね? 私をお城に連れて行ってください。何かの役に立てるかも!」
とりあえず早急に衣食住は確保したかった。
それなら聖女だと名乗り出てしまうのが一番手っ取り早く確実だと思ったのだ。
しかし男は冷たく答えた。
「お前を城に連れていくわけにはいかない」
「なんで!」
「今この国レヴァンタは隣国バラノスと一触即発状態にある。今お前が聖女として名乗りを上げれば確実に戦に巻き込まれるぞ」



