「あぁ。昼間なら、もっと遠くまで見渡せるだろうな」
「まぁな。でも夜空だって綺麗だろ?」
「あぁ」

 それから奴は足元を見た。
 城や寄宿舎、少し離れた都の灯りがこちらも夜空の星のように見えてなかなかの絶景だ。

「落ちたら最後だな」
「……怖いか?」

 一応訊いてみる。
 初めて空を飛んで怖がらせていたら申し訳ない。

「平気だ。……幼い頃、鳥に憧れていた」
「へ?」

 もう一度夜空を見上げ、そんなことを言い出したラディスに私は小さく驚く。

(こいつにもそんな頃があったのか)

 意外に思うと同時に急に親近感を覚えた。

「あんなふうに自由に空を飛べたらと、夢見ていた」
「じゃあ、今日その夢が叶ったな!」

 笑顔で言うと、奴は一度驚いたように私を見て、それからふっと目を伏せた。

「自由とは言えないが……まぁ、そうだな。感謝する」
「!?」

 感謝!?
 あの冷徹ラディス騎士団長が、私に、“感謝”……!?

 びっくりし過ぎて何も言えなかった。
 今日はなんだかこんなことばっかりだ。
 そして更にぎょっと驚くことを奴は言ったのだ。
 
「また、連れてきてもらえるか?」
「えっ!」
「これは、確かに癖になる」

 心なしか奴が微笑んだように見えて、私は今日一番の興奮を覚えた。

「だっろ!? うん、またいつでも連れてきてやるよ!」


 ――こうして、この日私とラディスは誰にも言えない秘密を共有したのだった。