私だって皆を騙しているのだ。ズキズキと胸が痛む。
「俺はさ、もう聖女様を待つのはやめた」
「え?」
皆がイリアスを見た。
「聖女様に傾倒してさ、聖女様がいれば俺達は大丈夫だって油断がそもそもいけなかったんだ。今回のことで俺は反省したよ」
「イリアス……」
「だから俺はさ、聖女様がいてもいなくても関係ない強い騎士になるって決めた」
その真面目でまっすぐな顔を見て、皆言葉を失ったようだった。
いつものようにそんな彼を茶化す奴もいない。しかし。
「君にしては、マトモなことを言うじゃないか」
その声はザフィーリだった。
いつからいたのか、皆の後ろで珍しく機嫌良さそうに口端を上げている。
それを見てイリアスは少し恥ずかしそうに嫌な顔をした。
「ザフィーリ……いたのかよ」
「僕も同意見だ。今回の件でわかっていることはひとつ。トーラがいなかったら僕たちは終わっていたってことだ」
その言葉に、ごくりと誰かが唾を飲み込んだ。
「……そう、だよな」
「ほんとだよ」
「マジでありがとな、トーラ」
また皆の視線と感謝が私に集中して、焦ってしまった。
そんな騒がしい朝が過ぎ、さぁ今日も馬の世話だと意気込んで厩舎に向かっている時だ。
「トーラ!」
「ラディス、団長!」
彼が急いだ様子で私の元へと駆けてくる。
その様子を見て魔女のことで何か新しい情報でも入ったのだろうかと緊張が走る。
――しかし。
「王陛下がお呼びだ。一緒に城へ来てくれ」
「……えっ!?」
一拍置いて、私の口から素っ頓狂な声が漏れていた。



