男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される


 更にもうひとり、同期の奴が声を上げた。

「あー、それなら俺もだ。腹が痛くてヤバかったときにさ、へそより上か下かって訊かれたから上だって答えたらそりゃ腹じゃなくて胃だ、ホットミルクでも飲んでちょっと横になってりゃ良くなるって、ほんとに治って驚いたもんな」

 それも、自分が胃が痛くなったときによくやっていたことだ。
 確か施設にいた頃、誰かに教わったのだ。

(マジで、向こうのちょっとした知識が役に立ってたんだな)

 ラディスの言ったとおりだ。

「やっぱすげーよ、トーラ」
「トーラがいれば俺らは安泰だな」

 と、そんなときだ。

「トーラ!」

 聞き覚えのあるデカい声に「げっ」と思いながら視線をやれば、案の定あの腹の立つチンピラ風の男が仲間を引き連れてこちらにやってくるではないか。
 なんの用だと嫌な顔をしていると、奴は私の前まで来てガバっと頭を下げた。

「これまですまなかった!」
「……へ?」

 まさかの謝罪に私が気の抜けた声を返すと、顔を上げ奴は続けた。

「昨日、俺のダチがお前の世話になった」

 彼の視線の先には、確かに昨日解呪した覚えのある若い騎士の男がいた。
 確か一番暴れて大変だった奴だ。
 その彼が私に頭を下げる。

「昨日は本当にありがとうございました。君がいなかったらと思うと、本当にぞっとする」

 タイプは大分違うが、どうやら彼とチンピラ男は友達らしい。