男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される


「お前のこと信じられないって言っただろ、俺」
「あ、ああ……」

 そこはやっぱり覚えているのかと私も視線を落とす。

「でも、オレが嘘を吐いていたのは本当のことだし……」

(今だって、本当のことは隠してるし……)

 ズキズキと胸が痛む。
 本当のことを言いたいけれど、先ほどのラディスとの約束がある。
 それに、やっぱりイリアスに実は女だと言うのは勇気が要った。
 それでもし彼の態度が変わってしまったら……友達ではなくなってしまったらと思うと、怖かった。

「俺さ、団長にお前を取られたみたいで面白くなかったんだよな」
「え?」

 顔を上げると、イリアスは気恥ずかしそうに苦笑していた。

「それに、昨日お前ザフィーリなんかと一緒にいたろ?」
「あ、ああ」
「それがまたイラっとしてさ。俺、お前のこと一番のダチだと思ってるから、なんか悔しくて。カッコ悪ぃよな、ほんと」

 バツが悪そうに頭を掻いているイリアスをぽかんと見つめる。
 
(一番の、ダチ……)

 それを心の中で繰り返しているうちに、急にじわりと涙が滲んできた。

「――お、オレだって! お前のことは一番のダチだと思ってるよ!」
「本当か?」
「本当に決まってんだろ!」

 それは、嘘偽りない本当の気持ちだ。
 するとイリアスは照れるように、でも嬉しそうに顔を緩ませた。

「ヤベ、めちゃくちゃ嬉しい。ありがとな、トーラ。これからもよろしく」
「こちらこそ!」

 そうして、私たちは笑顔でコツンと拳を合わせたのだった。