――ヤバイ!

 咄嗟に、私は後ろにいるザフィーリを部屋の外へと突き飛ばした。

「なっ!?」

 ザフィーリが目を剥きそんな私を見ていた。

 ――あの黒い煙はきっと私にしか見えていない。
 そして、あれは普通の人が触れたらヤバイものだと直感でわかった。

「逃げろ!」

 そう叫び、驚いた顔で何か口を開きかけたザフィーリの目の前で私は勢いよく扉を閉めた。
 それからすぐに振り返り、後ろ手に鍵を掛けながらイリアスを見つめる。
 彼は最早、憤怒の形相でこちらを睨みつけていた。

「イリアス……お前、呪いにやられちまったのか?」
「……」

 彼は答えない。
 ただ、フー、フー、とまるで手負いの獣のような荒い息を吐いている。

 背後のドアノブがガチャガチャと回され、次いでドンドンっと激しく叩かれる。

「トーラ開けるんだ! そいつは正気じゃない!」

 ザフィーリも気付いたようだ。
 彼の顔つきは明らかにいつもの彼じゃない。

(こんなの、イリアスじゃない)